好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
そうか、おじさんは息子のように育てた空が心配で俺に声をかけたんだ。
それだけ空のことを大切に思っているってことだろう。

「最近の空が変わったのは俺も気づいています。平石の一員になることを決心してくれたようでうれしく思っていました。あいつのことはともに平石財閥を支えていく人間だと思いますし、信頼できるライバルでもあります。しかしプライベートは別です。おじさんも空を信じて見守るか直接本人に聞いてください。俺は空のプライベートにまで踏み込む気はありません」

空にどんな変化が起きたのか、気にならないと言えば嘘になる。
おじさんの気持ちもわからなくはない。
でも、これ以上は踏み込まない。
それが俺たちにとって一番いいんだ。

「わかった、時間をとってすまなかったな」
「いえ」

トントン。
突然秘書室からのドアがノックされた。

ん?

「失礼します」
よほど急ぎのようなのか、返事を待たず礼が入ってきた。

「どうした?」
「ご自宅から急ぎの要件だそうで」

急ぎ?
そう言われてまず浮かんだのはじいさんとばあさんの顔。
2人とも八十歳を超えているし、いつ何があっても不思議じゃない。



「もしもし」
一応社長に断って電話に出た。

「遥?仕事中にごめんなさい。萌夏ちゃんが帰ってこないの」
「はあ?でも、まだ七時前でしょう?」

小学生じゃないんだ、萌夏だって遅くなる時くらいあるだろう。

「でも、今日は早く帰るって言っていたのよ。夕食がいらないときには必ず連絡もあるはずだし、それに携帯もつながらないの」
「わかった、俺からの連絡してみるから」
「お願いね。何かわかったら知らせてちょうだい」
「はいはい」
本当に心配性なんだから。

この時の俺はまだ事態の深刻さを理解していなかった。萌夏が本当にいなくなるなんて想像もしていなかった。
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