好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「それにしても、俺やおじさんの気持ちがよくわかる礼さんが、なんで大地にはダメなんですかねぇ」
「それは」
「自分の息子だからですか?」
「うん、そうね」

礼さんでも息子のことになると冷静ではいられないってことか。

「ごめんね、迷惑かけて。そして、泊めてくれてありがとう」
「いえ」

俺も過去に同じような場面を経験しているから、黙っていられなかっただけ。
いや、それだけじゃない。俺は礼さんと話がしたかった。
この春突然HIRAISIに異動になって以来、一度きちんと話したいと思っていた。

「礼さん、怒ってますか?」
「え?」
「一年間教育係として面倒を見てもらったのに突然HIRAISIに行ってしまったことを、怒っていますよね?」
「いいえ、もう怒ってはいない。もちろん、初めはショックだったわよ。かわいい後輩だと思っていた人が社長の息子だって聞いたんだから」
「息子のような、です」
「同じことでしょ」
「そこは違います」

俺はあくまでも高野空で、平石の人間ではない。
その一線はきちんとしたい。

「社長は息子だと思っているわよ」
「それは・・・」

「とにかく、私は怒っていないわ。それより、同じマンションだったことに驚いた」
「ええ、俺も驚きました」

考えてみればここは平石財閥の所有するマンション。
平石のおじさんや琴子おばさんがかわいがっている礼さんが、ここに住んでいるのは不思議ではない。


「夕食を作るから持って行ってくれる?」
「ええ。朝食は連れてきますから、俺も一緒に食べてもいいですか?」
「そうね、お願い」

やっといつもの表情に戻って台所に立つ礼さん。
こんな状況なのに礼さんの手料理が食べられることがうれしくて、俺は一人にやけてしまった。
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