信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
まだ現実になっていない状況を独り想像してみた。
妊娠し、出産する。
動物では幾度どなく経験してきたが、自分の事となるとまた別物だ。
子供は欲しい。何としてでも欲しかった。たとえ樹の子であっても。
幼い頃の寂しかった自分を抱きしめるように、我が子を愛したい。
祖母が亡くなった時も、祖父を送った時も、
血の繋がったひ孫を抱かせてあげられなくてごめんなさいと心の中で謝った。
「おはようございます!彩夏さん!」
家政婦の声に、我が子を想像していた世界から意識が戻った。
「あ、真由美さん、おはよう。」
「お洗濯だったら、私がやっておきますよ。」
「あ、大丈夫。自分の物は…自分で…。」
汚れたシーツを手にあたふたと洗面所に逃げ込んだ。
30近い大人のプライベートな事情に真由美が首を突っ込むとは思わないが、
今更、夫と夜を過ごしたとは言い出しにくかった。
「高畑さんはどうやら朝暗いうちに出発されたみたいですよ。」
「そう。」
「ご存じありませんでした?」
「よく寝てたから…。」
それきり、真由美は樹の話を振って来なかった。
彩夏は、シーツに漂白剤を振りかけ、洗濯機に放り込んだ。
スタートボタンを押すと、背伸びをして気分を改めようとした。
『仕事しなくちゃね』
樹が伝言もメモも無く去った事は考えないようにした。
どうせ、江本から連絡がくるのだ。
『お仕事が忙しいんです。』 とだけ。