信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています


「そんな大事な話を俺にしても大丈夫なんですか?」

「…いいのよ。ただし、交換条件があるわ。」
「何ですか?」

「この祥を、ここの役員として迎えてちょうだい。」
「お母さん!」

母の提案に、祥は驚いた様子だった。

「このニュースと引き換えなら安い物でしょう?」

「…スパイとして潜り込ませようって魂胆か?」
厳しい声で樹が言った。

「ほほほ…。」
るい子は息子の声色が変わっても、艶やかに笑った。

「私には夫の事も仕事の事も、どうでもいいの。私は、祥が大切なのよ。」

「お母さん、黙っていてください。」
ますます困惑している祥が大きな声を出した。

「いいのよ、祥。隠したってすぐわかるわ。」
「お母さん…。」

「私、近々離婚してこっちに帰ってくる予定なの。
 だから、この情報をあなたにあげる。その代わりに樹さん、
 あなたに祥を守ってもらいたいの。」

 あっさりと、母は二度目の離婚を告げた。軽く、鼻歌でも歌う様に。
樹は唖然とするばかりだ。
祥を樹に守って欲しいとは…
おそらく、祥はるい子の夫の会社の内部事情を知りすぎているのだろう。


「…暫く時間を下さい。」

「いいけど、あまり猶予は無いと思うわよ。」
また、鼻歌を歌う様に告げると
優雅に立ち上がり、るい子はドアに向かって歩いて行った。



「祥…。」

続いて立ち上がった祥を、樹は呼び止めた。

「お前は優秀なプログラマーだと聞いている。
 この会社で満足できるのか?」

「…兄さんと…働けるなら、役員なんて肩書は無くていいんだ。」

祥の真剣な眼差しが眩しかった。大人しい人物だと思っていたが、
意外にはっきりものを言う。

「兄と…思ってくれるのか。」

「僕は、あの日の事は幼すぎて良く覚えてないんだ…
 でも、お母さんが一枚だけ持ってた家族写真を
 時々泣きながら見てたのは…知ってる。」

「そうか…。」

「僕たち、暫くホテルに滞在してるから。
 秘書の人に連絡先は伝えてるからね。」

「わかった。」
「じゃ、…また。」

静にドアを閉めて祥は出て行った。


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