白鳥学園、いきものがかり


茹でタコの先輩が口を紡いでから、私に手を伸ばす。
——————しかし、



「ッ…!!」



私の隣から何かが風を切った。先輩は顔面目掛けて飛んできたそれをギリギリで躱した。その拍子にポーチが床に落ちる。


…っ、足?



「退けろ、」



紘の声だ。

距離を取る先輩に構わずポーチの中を漁っている。


抱えられ、紘の胸の中。
口元に持って来られた吸引器を無我夢中で口の中へ。


…震えてる。
呼吸が荒くて、過呼吸気味にもなってる。



「安心しろ。もう怖くねーから」



私の頭の上に乗った手と優しい声。
…さっきまでの低い声が嘘みたい。



「ゆっくりでいい…そう、それでいい」



薬の味がした。



「…お前、どういうつもりだ?」



先輩の低い声がする。

紘は一瞬ちらりと見たが、直ぐに私の方を向き優しく声を掛けてくれた。



「聞いてん————、!」

「黙れ。紬が吃驚すんだろうが」



静まり返る廊下。

ようやく落ち着いた私を見て、紘は安堵の溜息を吐いた。抱えられて立ち上がる。

< 29 / 153 >

この作品をシェア

pagetop