白鳥学園、いきものがかり
こんなに強く握られた事なんて。
今までなかったのに……。
甘い匂いが私の体を包んだ。
硬い胸板に押し付けられてる。
凪に抱き寄せられていた。
「凪?…どうしたの?」
…もしかして仕事で嫌な事でもあったのかな。
今日は何もかも急過ぎて吃驚する。
「紬は離れて行かないでくださいね」
みんなが離れないのなら。
傍に居ていいと言ってくれるなら。
「私から離れたりなんてしないよ」
「………本当ですか?」
聞き取りにくいほど小さな声がする。
…何か、凪にあったのかも。それなのに私…一瞬でも”怖い”って思ってしまった。
私は凪の背中に手を回し頷く。
凪が私の肩に頭を乗せた。
「約束破っちゃ駄目ですよ、紬。破ったら…俺、何するか分かりませんよ?」
…もしかして両親の離婚した時の事と重ねてるの?
凪を置いて出ていったおばさんは、あれから凪には会っていないらしい。…誰かが離れて行くの、トラウマになってるのかもしれない。
「うん。約束する」
────────でももし、
みんなから「距離を取ろう」って言われたらその時は…。
この時、凪が見えない所で不敵に笑っていた事…私は何も知らなかった。
この言葉の意味も、重みも何もかも、
私は全く知らなかった。