冷徹上司の、甘い秘密。



「着替えてこいよ。その格好じゃゆっくりできないだろ。寝室使っていいから。荷物も置いてきていいよ」


「……あ、じゃあお借りします」



 促されるままに寝室の扉を開ける。


 許可されたとは言え、何度か泊まったことがあるとは言え、何だがそわそわしてしまうのは何故だろうか。


 早着替えのように急いで持ってきたスウェットに着替えてリビングに戻る。


 荷物は言われた通り寝室に置いてきた。


 リビングのテーブルの上にはいくつかのおかずが並んでいて。


 その前に二人分の白米とお味噌汁が並ぶ。



「たくさん作ってきてくれたから半分は明日食べるか」


「はい」


「どれも美味そうで驚いた」


「ハードル上げないでくださいよ」


「いいだろ。匂いからして絶対美味いのはもうわかってんだから」


「っ……」



 そんな嬉しい言葉を噛み締めていると、



「食べていい?俺腹減ってんの」


「もちろんです。どうぞ」



 頷くと凄い勢いで食べ始めた綾人さん。



「……どうですか?」



 味が口に合うかが不安で、恐る恐る尋ねる。


 しかしそれは杞憂だったようだ。



「んまい。美味いよ。塩加減も丁度いい。俺好み」


「……良かったあ……」



 何度も味見をして作った甲斐があったようだ。
肉豆腐を嬉しそうに頬張る綾人さんにホッとして、私も箸を手に取った。


 食べ終わると、



「風呂入れてくる」



 と席を立った綾人さん。



「あ、はい……」



 何も出来ずにお茶を飲んでいると、数分で戻ってきた綾人さんは私の隣に座り、そのまま優しく抱きしめてくれる。



「……堂々と恋人がいるって言ってくれたの、かなり嬉しかった」


「……嘘付くの、あんまり得意じゃなくて」



 今までも何度も彼氏はいないって嘘をついてきたけど、その度に罪悪感がすごかったのは事実。今後は、"恋人がいる"くらいなら言ってもいいのかもしれない。

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