『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
「だ、ダメじゃないですよ?水やりや世話は私が他の植物と一緒にしますし、ぜひ植えてください、植えてみて、すくすく育つ姿を見れば、きっと楽しくなりますよっ!」
 園芸沼に、どっぷりはまるかもしれない……ひひひっ。とか、魔女っぽい笑いを心の中に押しとどめる。
 逃がしてなるものか!なんて思ってませんよ?ええ。
「何を植えたらいいと思う?」
「あなたは何が植えたいんですか?」
 本人の意思を尊重!きれいな花か、華憐な花か、それとも卒業した先輩たちのように毒草か、食虫植物か……。
 違法植物以外なら何でもご自由にどうぞだよっ!
 あ、もちろん苗とか種とか、用意しないといけないから、あんまり高級なものは無理だよ。
「由岸先輩は何を植えているの?これは何?」
 男子生徒が、足元の畝に植わっている植物を指さした。
「イチゴ」
「え?すごい、イチゴって、あのイチゴがなるの?」
 お、いいねぇ。食いつきが。
「そう。今年もいっぱい実ったのよ。もう少し早く来てくれればまだ食べられたんだけど……。今は子株けを作るためにそのまま植えてあるの」
「……今年は、もう実らないんだ……」
 男子生徒が遠い目をする。すごい落ち込みよう。
 そんなにイチゴが食べたかった?子株がたくさんできたらプランターでも栽培できるから分けてあげようかな。
「こっちのは何?」
「ゴーヤよ」
 イチゴの畝と距離をとった場所に、ゴーヤが植えてある。
「ゴーヤが好物なの?」
 男子生徒が、かわいそうな子を見るような目つきを向けてきた。
 まだ芽を出したばかりだけれど、明らかにイチゴよりも数が多い。どんだけゴーヤ好きなんだ!ってくらいの数の芽が顔を出している。
「あ、あれは学校に頼まれて苗を育てているのよ!私がゴーヤ好きってわけじゃないからね?」
「学校に?」
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