ため息のわけを教えてください
「昼時なんて地獄でしたよ。お客さんは時間ないし、こっちも急がなきゃいけないのに、いちいちにこやかにクッキーの説明しなきゃなんないんですよ? 後ろに並んでる人の顔は怖いし、渡そうとしてるのに無視して帰るし。このキャンペーンって、微妙じゃないですか。今どきばらまきは求められていないっていうか」

 口調はどんどん速くなり、なんだかわたしが怒られているような気分になってきた。
 その時、耳の真横の分け目から髪をぴったりとなで付けた常連客の男性、バーコードさんが来店した。同僚は「お先」とバックルームに引っ込んだ。

 彼は冷蔵棚から、良いことのあった日の証、幕の内弁当を手に取った。わたしは彼の耳に目を遣った。案の定、今日も耳の穴に銀色の玉が詰まっている。週明けなら競馬だが、それ以外の日はパチンコが日課なのだ。
 わたしはいつも彼が必ず買う煙草を二箱取って、レジに訪れるのを待つ。弁当と一緒に会計した。

「あの、今バレンタインキャンペーンで、お客さまにチョコクッキーを配っていて」
 棚の下から引っ張り出した、ハート型のクッキーには『好きです』と印字された文字が重なっている。耳栓をしているから、説明は何も耳に入っていないと思うと、気まずさしかない。
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