もっと蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻への溺愛を止められない~


「……これあげる、君に何かあった時には多分力になれると思うから」

 私達より先に食事を終えた男性が、千夏(ちなつ)さんに名刺か何かを渡しているようです。そんな男性をポカンとした表情で見ている千夏さんですが、これはもしかして……?
 私と柚瑠木(ゆるぎ)さんは顔を合わせて頷き合います、これが千夏さんを良い方向に向かわせてくれるのではないかと。

「おや、珍しいね? 君が女性をナンパするなんて」

「マスター、余計な事言わないでくれないかな? 俺は別にそんなやましい気持ちじゃ……っとヤバイ、それじゃあごちそうさま」

 時計で時間を確認した男性は慌てた様子で店から出て行ってしまいました。残念です、もう少し千夏さんの心を揺さぶって欲しかったのですが……
 ですが、千夏さんはただ驚いた様子で、渡された名刺を見つめながらこう呟いたのです。

「飴玉くらいでそんな気を使われてしまうなんて、これからは気軽に渡さない方がいいのかしらね?」

 ……そうでした、彼女はほとんど外に出る事のない超が付くほどの世間知らずのお嬢様なのでした。柚瑠木さんにそう伝えれば「月菜(つきな)さんもですよ?」と言われそうな気がしますが、彼女も相当だと思います。
 まさかこんな風に受け取られているとは、さっきの男性も思いもしないでしょう。少しだけ気の毒な気もしますが、それも仕方無い事なのかもしれません。


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