エル・ディアブロの献身

 乗るのは二回目。あの高級車に揺られてたどり着いた一和理さんと優美さんが暮らす家で、一時間ほど、今後について話し合った。もちろん、朝地一咲も交えて。
 私が住んでいたあのアパートにはもう戻らない、近寄らない。これは満場一致だった。問題は、それならばどこに住むのか、ということだった。
 新しい住居が決まるまでだとしても、私が提案したネットカフェは即座に却下。一和理さんと優美さんは一緒に住もうと言って譲らない。見兼ねた朝地一咲が「間を取って叔父が経営しているホテルはどうです?」と言いだしたけれど、「お金ないから」と私が言えば、「ネカフェの次にダメだろ」と一和理さんは呆れたように首を横にふった。
 そんな感じで話し合いは平行線。時間も時間だ。穏便に済ませるのならば、一和理さんと優美さんの提案を受け入れるべきなのだろう。しかし、それだけはしたくなかった。私のわがままだというのは分かっているけれど、だけど、こればっかりは、嫌だった。
 そんな私に気付いたのか否かは、彼のみぞ知るところだろう。「なら、俺の家は?」どうせ却下されるだろうけど、と言わんばかりの表情を引っ提げて朝地一咲はそう(のたま)った。「花梛が嫌じゃなければ、おいで」と付け加えて。

「……なぁ、本当に良かったのか? マスターのとこに世話にならなくて」
「うん」

 よもや、己の提案に食い付かれるとは思っていなかったのだろう。ガチャリ、玄関を施錠をしながら、彼はそんなことを聞いてくる。
 私も、彼がそんな提案をしてくるとは思っていなかったけれど、一和理さんと優美さんに迷惑をかけたくはなかったし、何より、彼らと同じ空間に住むことで起こるかもしれない環境の変化への危惧が私を頑固者にさせ、そして彼の提案に食い付かせた。

「……あー、じゃあ、部屋に案内し」
「ねぇ」
「たっ、ら!?」

 彼ともう会えなくなるかもしれない。それは、嫌だ。
 不意に、けれども確かに感じたそれを確かめるように、目の前にある彼の背中に抱き付いた。
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