あの日、小猫と出会ったから
「……って、腹壊すからに決まってるだろ!」
 我に返って、俺は怒鳴った。危うく純粋な眼に丸め込まれて本論から脱線する所だった。
「どうしてジェイミーはお腹壊さないの?」
「慣れてるから!」
「じゃあ、僕も慣れたら壊さなくなるよね」
「だからお前は慣れる必要無いんだって!」
 バカみたいなやり取りに呆れたのか、なかなか飯が出てこないからか、アイは大きな欠伸をしてもう一度布団に丸くなった。 


 案の定、リフは猛烈に腹を壊した上に盛大に吐いてくれた。結局、日が落ちるまで体調が良くならず、またしても小猫は廃屋にお泊りと相成った。
「だから言っただろ、腹壊すって」
「ううぅ……」
 口をゆすがせ、タオルを手渡す。そろそろ空っぽになったか、嘔吐は治まった。良くなってきたら、前に大将に教わったごく薄い塩水を飲ませてみるか。勿論ボトルの水を使って。
 辛そうにうずくまる小さな背中をそっとさする。
「落ち着いたか?」
「……ジェイミー」
 口を拭いながらリフが顔を上げる。白いを通り越して青白い。
「背中、触らないで」
「あ、悪い」
 そうか、気持ち悪いのに背中さするのは逆効果だったか。
「横になれるか?」
「うん、多分……」
 立ち上がった途端にふらついたリフを抱きとめた。ふと、感じた違和感。
 ……軽い。昨日抱き上げた時にも思ったが、リフは見た目以上に軽い気がする。
「立てるか?」
 リフは弱々しく首を横に振る。
「しゃーねーな」
 俺はリフを抱えて布団に寝かせた。念のため、口を開けた袋も完備。
「水飲めそうだったら言えよ」
「うん……」
 小さく頷いて、リフはふふと笑った。
「何だよ」
「嬉しいな、って、思って」
 もう一日ここに居られるから。
 そう囁くリフの額を小突いて、俺は塩水を作りに棚に向かった。窓硝子に映った自分が我知らず笑んでいることに気づき、苦笑した。
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