恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「莉佐は異動になることに同意してるって、深沢さんに聞いた」

「もしそういう辞令が出るなら仕方ないですよ」

 淡々と返事をする私に対し、彼は唖然とした表情を見せた。

「どうしたんだよ。きっともう秘書課にはいられない、絶対どこかに飛ばされるって気にしてたのに」

「そうでしたよね……」

 簡単に言えば、事情が変わったのだ。その部分で悩んでいる場合ではなくなった。
 もし異動になれば仕事に慣れたころに産休や育休に入らなくてはいけなくなるので、なるべく周囲に迷惑をかけないように休みを申請しなければと、仕事に関して言えばそれが今の私の悩みだ。

「実は唯人さんに別の報告があるんですけど」

「なに?」

「まだはっきりしていませんし、話はまたゆっくりプライベートの時間に」

 妊娠のことは彼に告げなければいけないが、仕事が定時で終わらない日が続いているせいで、まだ病院に行けていない。
 検査薬で陽性だったのでほぼ間違いないけれど、彼への報告は産婦人科できちんと診てもらってからにしようと考えている。

 私が副社長室を出るとき、人事については深沢部長と相談すると唯人さんは言い残した。
 この件は深沢部長と人事部に任せるしかないのだけれど、私がなにを言っても唯人さんは口を挟むのをやめないだろう。

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