恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「急だったのに土産まで用意して、大変だっただろ」

「秋本さんに協力してもらってなんとか……」

「あのフィナンシェは、君が選んだのか?」

 副社長の質問にうなずきつつも、チョイスを間違えたのだろうかと心配な気持ちが湧いてきた。

「ダメだったでしょうか」

「いや、最高だ。怒ってたからさっきは無反応だったが、母は元々ロカボやオーガニックのものが好きなんだ」

「そうでしたか!」

 それは知らなかったから偶然だけれど、きっとあのフィナンシェなら気に入っていただけるはずだ。そう思うと自然と顔がほころんだ。

「太るのは嫌だと、年中言ってるから」

 お母様は全然体形を気にする必要などなくお綺麗だったけれど、食生活など陰で努力をしていらっしゃるのだろう。
 私も体に良い食品は好きだし、今後も良いものがあればそれをお土産でお渡しする方向でいこう。

「気を使わせたな。ありがとう」

 はにかむようにふわりと笑った副社長の顔がとても綺麗で、息が止まりそうになった。
 思わず一歩後ずさって視線を下げる。近づいたままだと魂を抜かれそうになるから。

 それでも心臓がドキドキと痛いほど鼓動するのがおさまらない。私はいったいどうしてしまったのだろう。

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