おじさんには恋なんて出来ない
第八話 おじさんにゾッコンなんです
 アラームの音で目を覚ます。朝の七時だ。

 美夜はスマホのアラームを止めてぼんやりとまどろみの中を漂った。

 目を瞑ると、先日の日向の顔が蘇る。いや、これからは「辰美さん」と呼ぶべきだろうか。

 ついに辰美と両思いになれたと思うと顔のニヤケが止まらない。

 勢いで告白してしまったが、なんとか成功してほっとした。

 ────でも、辰美さん……私が告白しなかったら何も言わずにファンのままでいるつもりだったのかな。

 辰美は歳の差を気にしている。確かに四十二歳と二十四歳ではかなり差がある。親子と言われても仕方ない。

 けれど辰美はそんなこと気にならないくらい素敵な男性だ。世間的なおじさんのイメージとは違う。紳士的で、物腰柔らかで、落ち着いている。ビール片手に大口を開けて笑ったり酔っ払って道端で寝たりしないだろう。

 美夜は準備を済ませてバイトへ向かった。

 今日の予定はバイトを終わらせたあと家に戻ってまた夜にストリートに出掛ける。

 もしかしたら辰美も来るかもしれない。その後は二人で出掛けたりできないだろうか。なんて期待をした。




 今日のストリートは告知していたからファンの何人かが来ていた。辰美も告知を見ているはずだからもし近ければ来るだろう。

 やがて演奏を開始して少しして、辰美が現れた。

 辰美はいつもと同じ距離感で控えめに聞いている。

 演奏に集中しようと思うものの、つい気がそれで辰美の方ばかり見てしまう。

 ────もっと近くで聞けばいいのに。

 辰美の顔をもっと近くで見たい。もっと喋りたい。

 出会った時はまさかこんなことになるんて思わなかった。素敵なファン。そして落ち込んでいた自分を救ってくれた恩人。そんな人を好きになって、恋人になるなんて人生分からないものだ。

 元カレとはうまくいかなかったが、辰美ならうまくいくかもしれない。父親のようにピアノを否定したりもしない。多少歳上でも気にならなかった。それぐらい素敵な人だ。

 演奏は九時前に終わった。辰美は最後まで残って聞いていた。

 ようやくやっと辰美と話せる────そう思った。だが、辰美は物販に並ぶことなく背を向けた。

 ────え? なんで帰っちゃうの?

 人混みの中に消えていく辰美の背中を目で追いながら美夜は慌てた。やっと話せると思っていたのに。なんだったら一緒に夕食でもどうかと思っていた。

 まさか、注意力散漫な演奏をしていたから怒ったのだろうか。それとも飽きてしまったのだろうか。色々なことが頭の中をぐるぐるする。

「お付き合い宣言」の日から一度も会えていない。だから今日会えることを楽しみにしていたのに。

 新規の客からCDを買ってもらえたしストリート自体は良かったが、辰美のことを考えるとちっとも嬉しいと思えなかった。
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