おじさんには恋なんて出来ない
 始業前、辰美は出社すると有野に声をかけた。

 有野はパソコンの電源をつけて起動するのを待っていた。

「有野くん、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

 有野は笑顔で答えた。辰美はMIYAのライブの情報が映ったホームページの画面をスマホに出し、有野に差し出した。

「前に、ピアノが聴きたいって言ってただろう? もしよかったら一緒にどうだい?」

「えっいいんですか!?」

「もちろん。この人は俺がよく聞きに行くアーティストさんなんだけど、本当に上手なんだ。君にも是非聞いてほしい」

「うわあ、嬉しいです! へえ、女性のピアニストさんなんですね!」

「月末の土曜にライブがあるんだ。用事がなかったら……」

「ないです! 何にもありません!」

「そうか。それならよかった。ならチケットは俺が予約しておくよ。情報はメールで送っておくから、見ておいてくれ」

「すごく楽しみです。誘ってくださってありがとうございます」

 有野は本当に嬉しそうだ。よっぽど行きたかったのだろう。

 有野は美夜より少し年上だ。女性のファンは少ないから、来たらきっと喜ぶはずだ。
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