おじさんには恋なんて出来ない
第十三話 言葉にできない
 数日後、バイトに行くと詩音が出勤していた。念のため大事をとって数日間休んでいた美夜の代わりに出勤してくれていたお礼を言うと、彼女は意味ありげに視線を向けた。

「いえいえ、お安い御用よ。怪我はどう?」

「うん。もう大丈夫。足もほとんど痛くないし」

「まあ突発的な事故だったとはいえ……生きててよかったよ。ヒヤヒヤしたんだから」

「心配かけてごめんね」

 まさかあんな場所で事故に遭うとは思っても見なかった。たまたま運が良かったから助かったが、当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれない。そう思うとゾッとする。

 だが、そのおかげで辰美がどう思っているか知ることが出来た。まさか仕事を放り出してまで来てくれるとは思わなかった。案外自分も愛されているのだと、美夜は嬉しく思った。

「イケオジとは仲直りした?」

「うん……あのさ、あの時辰美さんに電話したのって本当に慌ててたから?」

 救急車で運ばれて処置を受けている間、詩音は部屋の外にいた。恐らくその時に電話したのだろう。

 だが、運ばれた時は痛かったが、目に見えて血が出ていたわけではないし、それを言うならバイクに乗っていた人の方が大惨事だった。あれだけの怪我で命の危険を意識して辰美に連絡したとは思えない。

 美夜が問いかけると、詩音は誤魔化すようにスイッと視線を外した。やはり、狙ってやったようだ。

「もう、詩音ちゃん」

「あはは……ごめんごめん。いやね、切羽詰まった状況だったし、もしかしたらってこともあるじゃない?」

「辰美さんほんとに心配してたんだから。嬉しいけど、驚くからやめて」

「そうねえ驚いてたねえ。いいシーンだったよドラマみたいで」

「詩音ちゃん」

 じろりと睨むと、詩音はごめんごめんと茶化した。有難いようなありがたくないような。辰美の寿命が縮まったら詩音のせいだ。

「許してよ。仲直り出来たんだし」

「おかげさまで、今度旅行に行くことになりました」

「旅行? イケオジ、やるじゃない」

 そうなのだ。まさかあの辰美が自分から旅行に誘ってくれるとは思わなかった。だからとても嬉しいのだが────。

 ────あの発言は反則だよ……。

 辰美が本気になってくれたことは嬉しい。嬉しいが、まさかあんなふうに言われると思わなかっただけに、困惑もしている。

「続き」というと、あのキスの続きに他ならない。辰美はもう怖くなくなったのきをろうか。

 いや、せっかく辰美がその気になったのに水を差すなんてできない。何も聞かずに受け入れるべきだ。

「ね、年上の人ってどんな感じ?」

「え?」

「上手い?」

 詩音はどこか期待した眼差しだ。だが生憎、期待するようなことはまだ一度も起こっていない。辰美が上手いかどうかも分からない。

「さ、さあ……」

「もったいぶっちゃって〜」

 もったいぶってなどいない。本当に知らないのだ。だが、知らない、やったことないなどと言ったらまた質問の嵐だ。

 辰美は未経験ではないだろう。仮にも元既婚者だだ。自分も豊富とまではいかないが、ないわけではない。

 だから決して、初めての時のように初々しい夜にはならないだろう。

 ────って、やめやめ。私別にエッチするために付き合ってるんじゃないんだし。旅行は辰美さんと仲良くなるために行くんだから。
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