とろけるような、キスをして。



 先ほど、ようやく退職願を総務部長に提出してきたところだ。


先生に"退職願出した。緊張した"とメッセージを送って帰る準備をする。


会社を出たタイミングで、先生から"頑張ったな"と返事が来た。


 家に帰ると、適当に晩ご飯を済ませてお風呂に入る。


上がってしばらくしたところで、スマートフォンが鳴っていることに気が付いた。


画面を見ると、"深山 修斗"の文字。


電話だったため、そのまま通話ボタンをタップして耳に当てる。



「もしもし?」


『あ、みゃーこ?』


「どうかした?」


『んー……特に用はないんだけど』



 髪の毛をタオルで拭きながら首を傾げていると、



『みゃーこの声が聞きたくなったから』



 そんな彼氏みたいなことを言われて、一気に体温が跳ね上がる。



『みゃーこの声聞くと、安心するっていうか……落ち着くんだよね』



 私が戸惑っているのが電話越しでもわかるのだろう。先生はクスクスと笑っていた。



「か、からかわないでよ……」


『からかってない。俺はいつだって本気です』


「タチ悪……」


『ははっ』



 ほら、やっぱり笑ってる。


私をからかうことの何がそんなに面白いのかはよくわからない。


私の声が落ち着く?


……それは、先生の方だよ。


 先生の声は、電話越しでもとても優しい。


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