とろけるような、キスをして。



 数日後。無事に私の退職願が受理された。



「次の仕事は決まってるのかい?」


「まだ確定ではありませんが、知人に紹介してもらえることになっていて」


「そうか。じゃあ退職届書いておいて。人事部に聞けば用紙くれるはずだから。あ、後引き継ぎもよろしく頼んだよ」


「はい。ありがとうございます」



 総務部長のデスクを離れ、自分のデスクに戻る。



「野々村さん、辞めちゃうの?」



 私の二年先輩の橋本さんが小声で聞いてくる。



「はい。地元に帰ろうと思って」


「そっかあ。……寂しくなるなあ。辞める前にご飯行こうね!」


「はい。ぜひお願いします」



 私が入社した時から可愛がってくれている橋本さんの優しさに、何も相談せずに決めたことへの申し訳なさを感じた。


課長に言われた通り人事部に出向き、退職にあたっての書類をいくつか受け取る。



「そっか。離職票も貰わないと……」



 転職はやることが山積みだ。


< 51 / 196 >

この作品をシェア

pagetop