とろけるような、キスをして。


「そういえば先生、今日仕事は?」



 今日は平日。木曜日だ。私は有休をとったからここにいるけれど、先生は普通に仕事じゃないのだろうか。なんでこんなところにいるんだろう。



「今日は開校記念日で休みだよ」


「あれ?そうだっけ?」


「うん。だから先月と同じで部活やってる生徒たちしかいないから学校は静かだよ」



 開校記念日なんて、すっかり忘れていた。


そういえばそんな日もあったような……なかったような。


ほとんど記憶に無い。



「……え、てことは休みなのに面接してくれるの?」


「ん?あぁ、でも開校記念日って言っても定期試験が近いから先生方はほとんど出勤してるんだよ」


「それ一番忙しい時期じゃん。それはそれで申し訳ないよ……」


「大丈夫だって。教師って大体常に忙しいから。めっちゃブラックだから。それに教頭が日にち決めたんだからみゃーこは気にすることないよ。ほら、荷物貸して」



 半ば強制的に荷物を持っていかれ、先生の隣を歩いて車に向かう。



「みゃーこは明日も有休とれたんだよな?」


「うん」



 頷きながらシートベルトをする。



「帰りの飛行機は?」


「日曜日の最終便」


「またそうやって……最終便にしたら帰り遅くなるだろっての」


「最寄り駅着いたら電話すればいいんでしょ?」


「……まぁ、うん。そうなんだけどさ」



 地下駐車場を出ると、先月とは違って外の景色は冬に備えて葉を落とし、少し寂しげな雰囲気を醸し出していた。


 もう少ししたら、この街には雪が降る。


見渡す限りが銀世界に変わり、しんしんと舞い落ちる雪が今は寂しい木を白く染めるだろう。


 果たしてその頃には、私はこの街に帰ってきているのだろうか。


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