とろけるような、キスをして。



「そっか。頑張ってね。応援してる」


「ありがとうございます」



 お礼を告げて、グラスに入ったスクリュードライバーを口に傾ける。


ウォッカ少なめで作ってもらったからか、オレンジの酸味が強くて飲みやすい。


 小皿に盛られたカシューナッツを摘んでいると、私を見つめた橋本さんがニヤニヤしながら呟いた。



「最近の野々村さん、すごく笑顔が増えて明るくなったよね」


「えっ。……そうですかね?自分じゃよくわからないです」



 初めてそんなことを言われて、驚いてナッツをお皿に落としてしまった。それをもう一度摘んで、口に運ぶ。



「いや、今までも可愛い子だなって思ってたけどね?最近は明るくなってもっと素敵になった感じ。きっと良い恋してるんだろうなって。勝手に思ってた」


「恋、ですか!?」



 タイムリーな単語に、私は大袈裟に肩を跳ねさせた。



「あれ?違った?女の子が綺麗になるのは、大体恋してる時だからさ。野々村さんも多分そうなんだろうなって」



 女の勘というやつなのだろうか。それにしても鋭い。……いや私がわかりやすかっただけだろうか。


ウィスキーが入ったグラスを軽く回しながら、橋本さんは頬杖をつく。


私は目の前のグラスを見つめた。



「……多分、そうなんだと思います」



 この三週間の間に、私は自分でもわかっていた。


 これは恋だと思う。私、好きなんだと思う。


いくら卒業したとは言え、教師を好きになるなんて全く想像だにしなかったけれど。



「野々村さん見てるとわかるよ。その相手、すっごく素敵な人でしょ」


「……はい」



 そうなのだ。素敵な人なんだよ。


恥ずかしいけれど頷くと、橋本さんは面白そうに口を開く。


< 98 / 196 >

この作品をシェア

pagetop