どこまでも
 優希との離婚の後は、かなり落ち込んでいたらしい。もう男の人はいいやと諦めていたが、数年前に優しい人と出会って再婚したと明日美は話してくれた。

 花のことも実の娘のように大切にしていると聞いて、安心する。

「ゆうちゃん、ごめんね」
「ん?」

 表情を曇らせながら明日美は小さく頭を下げる。

「あの時知らなかったんだけど、両親が酷いことを言ったんでしょう。後から知って……ゆうちゃんに謝ろうと思ったんだけど、もう連絡がつかなくて……ごめんなさい」
「そんなこと……っ。謝らなくていいよ。ぼくの方こそ責められて当然のことをしたんだし、あれくらい普通だよ」

 当時は言葉の一つ一つが突き刺さった。

 見ないふりをしていた傷を暴かれ、まだ膿んでいた場所をほじくりかえされたような、絶望にも似た気持ちもあった。

 だけど子供を心配し、守ろうとした彼らのことは責められない。親なら当然のことだと思う。

「それより花が成人か」

 今日は花の二十回目の誕生日だった。小学生に上がる前のまだ小さかった花しか知らない優希には、大人になった花が信じられない。

 どんな顔で会えばいいのかとためらう彼を明日美は説得し、今回、みんなでお祝いすることに決まった。

「明日美の旦那さんに会うのも緊張するよ」
「大丈夫、すっごい優しい人なの。ゆうちゃんみたく美人じゃないんだけどね」

 フフっといたずらっ子のように笑う明日美とこうした時間を過ごせるなんて、あの頃は考えたこともなかった。

「あっ、きたきた!」

 遠くから二人のシルエットが見える。一人はちょっとズングリとした風情の男性で、その少し後ろにスラっとした可憐な女性がためらいながらこちらへ向かってくる。

「あれが……花……」

 モミジのような小さな手を繋いでいたあの日から、どれだけの年月が流れたのか。何よりも愛おしいと思った娘がすぐ近くにいる。名前のように可憐で可愛らしい女性に成長していた。

「花」

 呼びかけると困ったように優希を見つめ、瞳にうっすらと涙の膜を張った。

「パパ」

 小さく呼ばれた声はちゃんと優希に届いた。酷い仕打ちをした優希を、まだ「パパ」と呼んでくれるのか。

「花!」

 震える脚でヨロヨロと近寄り、目の前に立つとすっかり大人になった花がそこにいた。
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