茨ちゃんは勘違い
「な、なによ見てたの」
 しらばっくれた畑山は、恥ずかしそうに顔を背けると、春海の方を見ないように呟いた。
 百合絵はアメリカンな感じで両の手を肩口まで上げて天へ向けると「やれやれだぜ」という表情を浮かべた。
「い、一応感謝だけしておく……あ、ありが……」
 十匹、ではなく、とう、と畑山が続けようとした刹那。
「春ちゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁん♡♡♡」
 桜が猛ダッシュで駆け寄ると、春海に抱きついた。
 百合絵と畑山は、瞬時に固まった。
「ねぇ春ちゃん♡ ねぇ春ちゃん♡ ねぇねぇ見てた♡? 私頑張ったでしょ♡?」
「うん♡ 桜ってば超頑張ってたよ♡」
 そんな二人を瞬時に置いてけぼりにした春海と桜は、公然とイチャイチャしだす。
「ね~え~♡ 桜にご褒美は♡? ちゅ~う~♡」
「だ、だめだって♡ みんな見てるしこんなところで♡」 
畑山が「あ……あ……」と口を開けたまま母音を口にしていると、桜が畑山の方に向き直った。
 軽く咳払いすると、畑山も姿勢を正す。
「あ、あの……、すご~~~~~く言いそびれちゃってて……言う機会は無いものかと探っている内に、茨ちゃんが溺れる原因にもなっちゃったりして……隠しているつもりはなかったんですけど、これを機会に言わせて頂きます」
 桜は春海の方をちらっと見ると、微笑んだ。
「私の彼氏、春ちゃんです♡」
「な、なんか今までごめん。俺に彼女居るの言ってなくて。嫌われているとばっかり思っていたからさ……まさかお前が俺に気があるなんて知らなくて……ほんとごめん!」
 …。
 ……。
 ………。
 百合絵と畑山は声を揃えて叫んだ。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!??!」
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