茨ちゃんは勘違い
「はぁ…はぁ…」

百合絵は肩で息をしながら、ムクッと立ち上がると、サンドバッグを再びクローゼットに押し込んだ。

蹴りで。



ドカンっ!!
バタン…



しばらくすると、タタタっと廊下を走る音がして、母親がノックもしないで部屋にやってくる。

「ちょっ…百合絵!?久々にもの凄い地響きが聞こえたけど、アンタまた何かやったの!?」

母の問い掛けに、百合絵はいつの間にか汗一つかかずに涼しい顔で言った。

「え?何にも無いよ?気のせいじゃない?」

しかも机に向かっていたりする。

母親は首をかしげ、

「変ねえ…?確かに局地的な大災害が起きたような音が聞こえたんだけど…」
「工事だよ☆きっと♪」

とか、平気で笑顔で言い放つ百合絵が怖い。

「まぁいいわ…入学式…どうだった?」

続け様に母親が訊いてきた『入学式』という単語に、百合絵は握っていたシャーペンをへし折る程過剰反応した。

「うん………まぁ………普通に………」

百合絵のコメカミに浮き出た血管がピクピクいってるが、母親は一切気付いていない。

「ふ~~~ん…まぁ、新しい学校でも頑張るのよ」

そう言い残すと、母親は元の場所へ戻って行った。

百合絵は、母親が去ったのを確認すると、無言で再びクローゼットを開け、ボソリと呟いた。

「まだ…腹の虫が治まらないようね…」

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