ファーストキスを奪った責任はとってもらいますと、超美麗魔導師長様に迫られています
 不運の塊、それが私、マリエル・セイメスの二つ名である。命名したのはもちろん私だ。

 さて、不運だろうが生きていかないといけない。なので、私は昨日の不運は昨日のうちに忘れるをモットーとしている。

 不運を引きずると、三日後には十個、十日経てば三十を超える不運を抱えて生きなければならないからだ。昨日の不運は昨日の私のものであって、今日の私のものではない。

 ゆえに、魔導師長オルガとのちょっぴり苦い口づけも私の中では終わったこととなった。

 しかし、相手がそう思うかは別問題。お父さまの執務室に呼び出された私は、今日の不運が昨日の処理の甘さからくることに気づく。

 目の前には超を十個つけても足りない美貌を持つ魔導師長オルガ。隣に座るお父さまなど、緊張でぎっくり腰の痛みも忘れている。いつもより背筋まで伸びていた。

 眉をぴくりとも動かさない綺麗な顔を見ていられず、私はその場で膝をつき床に頭をこすりつけた。

「昨日は申し訳ございませんでした!」

 部屋に私の声が響く。処刑の場で命乞いとは片腹痛いわ。でも、謝る他ない。何が何だかわからず、困惑の声を上げるお父さまと、無言のままのオルガさま。

 彼は小さく咳払いすると、静かな声で言った。

「子爵、マリエル嬢と少し二人きりでお話しさせていただいても?」

 え? 今、なんと?

「もちろんです。ささ、マリエル。そんなところにいないで、こちらへ」

 お父さま、さすがに「ささ」じゃないわ。

 私が何か言う前にお父さまは私を椅子に促すと、さっさと執務室を出て行ってしまった。

「えっと……そのですね……。昨夜のことは何と言ってお詫びしたらよいか……。でも、オルガ様は何と言っても時のお方。唇が当たったくらい、ただの事故だと思えるくらい美女と口づけをたくさんしていらっしゃるでしょう?」

 あはは。と笑って見せたがオルガ様の表情はいっさい変わらない。

針のむしろだわ〜。

昨日の不運をひきづるだけでも最悪の事態だというのに、その相手がまた最悪。今年のナンバーワン不運はこれに決まりだわ。

「ファーストキスだった」

 小さな、呟くような声が聞こえた。

「は? いえ、ちょっと耳がおかしくなったみたいですの」
「ファーストキスだと言っている」
「あはは。まだおかしいみたいなんです。ちょっと昨日転んだときに頭を打ってしまったかしら? オルガ様の口からファーストキスだなんて」

 ないない。だってこの美貌だ。女よりも美しい陶器のような肌。それに見合うだけの目鼻立ち。白銀の髪は輝いてすら見える。

 二十五歳でこの麗しい男が口づけの経験がないってことは絶対にない。

 ないったらない。

「ファーストキスだ」
「えっと、何度目のファーストキスでしょうか? あ、もしかして、私とは初めてという意味でしょうか? 私ったらとんだ勘違いを」
「正真正銘、君との初めてであり、私の人生においての初めてだ」
「は……はぁ……」
「マリエル嬢、このファーストキスの責任は取っていただく」

 冷たい目が私を見下ろす。

 ファーストキスの責任……? どうやって?

「私の恋人になってもらおう」
「え?」

 恋人? こいびと? コイビト……?

「ええええええ!?」
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