今宵、ロマンチスト達ここに集いて




「”ほくろと黒いパーカ” というだけでは、さすがに探せませんよね……」


私は同意と、一晩中その恩人を探し回っていたという前崎さんのご主人に同情を示した。
すると前崎さんはクスクスと少女のように笑い声を転がせる。


「でもね、実は、夫はその時、わたしの命の恩人を探してたわけじゃなかったのよ」

「え?どういうことですか?」


思いがけない展開に、私は素直に驚きの反応になってしまった。
前崎さんはどこか楽しそうにも見えるので、それが、悪い方向への展開でないことは想像できるけれど……


「それはね……」

口元目元に笑みを預けたまま、説明しようとしてくれた前崎さんだったが、ちょうど廊下から夕食の配膳が始まる音が聞こえてきて、話が止まってしまった。

「あら、もうそんな時間?」

扉口を見やり、小首を傾げる前崎さん。


「いけないわね、夫の話となると、すっかり時間を忘れちゃうわ。岸里さん、こんな時間まで付き合わせちゃってごめんなさい」

照れたように、ちょっと肩をすくめて。
そんな仕草が、可愛らしく見えた。
とてもじゃないけど、余命宣告を受けてる入院患者さんには思えないのだ。









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