冷徹御曹司の溺愛は突然に、烈火のようにほとばしる~愛なき契約夫婦の艶美な一夜~

事情

翌日、私は通常通り出勤した。

昨日の話はなんだかタヌキに騙されたような気さえして、職場にはまだ辞める旨は伝えられなかった。

いつもの通り淡々と仕事をこなす。

私の仕事はいわゆる事務職。
よく言えば営業補佐。何でも屋。
でも私はそんな仕事が大好き。
地味だけどコツコツやれる。
でも辞めなければならないなんて残念。

辞める理由って…どうしたらいいのかしら。
結婚退職?一身上の都合の方がいいのかしら。

どの程度の契約妻なのかわからない。

そもそもタヌキに騙されていたのなら1000万の借金が迫っていることになる。

そう思うと心拍数が上がってくる。

とにかく響さんの秘書からの連絡を待つしかない。

神山さんの名刺も、響さんの名刺もある。

手帳を確認すると、もちろん葉っぱになっていない紙の名刺が挟まれていた。
良かった…。

退勤時刻が迫る。
今日も一日トラブル無く終わった。  

昨日のことで疲れたから今日は早く寝ないとなぁ…。

私はロッカーで着替え通用口から出る。

すると見慣れない男性が立っていた。  
私と目が合うと微笑みながら近づいてくる。

「浅田玲奈さんですね。」
 
「失礼ですがどちら様でしょうか?」

「わたくし、弓川コーポレーション、弓川響の第一秘書、米山と申します。」

「あ…。」

「はい、昨晩の件を弓川から伺っております。もしよろしければわたくしの方で補足させていただきたく本日さっそくですが玲奈様のところへ参りました。」

「はい。ありがとうございます。」

身なりの整ったイケメン。
年は40くらいに見える。
話口調も穏やかで、秘書の風格が滲み出ている。

私は米山さんに連れられ、個室になっている和食のお店へむかった。
 
もちろんそこに響さんはいない。

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