遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
珍しく和花が秀人の席まで来て、「あの」と声をかける。

「佐伯さん、次の会議なのですがパソコンのセッティング以外に必要なものありますか?」

「え?ああ、それだけで大丈夫だけど自分でできるからいいですよ」

「はい、パソコンのセッティングだけはもうしてきました。すぐに使える状態です」

「……ありがとうございます。それより会議室入って大丈夫ですか?」

和花はキョトンとしたあと、申し訳なさそうに眉を下げ遠慮がちに言う。

「お気遣いありがとうございます。それくらいなら大丈夫ですから」

秀人は、林部は和花が会議室に入るような仕事はなるべくさせないように配慮していたと聞いていたので、まさか和花自ら率先して準備してくれたことに驚くと共に心配になったのだが、本人が大丈夫というならばそうなのだろうか。

和花は静かに席に戻り、普段と変わらず仕事を始めた。

「和花ちゃん、注文用紙持ってない?」

一際明るい声がフロアに響き顔を上げると、和花の元になぎさがやってきた。

「注文用紙?なぎささん、今は電子化になってますよ」

「知ってる知ってる!でも昔の紙の注文用紙がどうしてもいるのよ。和花ちゃんのところで持ってないかなーって。負の遺産、ありそうじゃん。和花ちゃん物持ちいいし」

「負の遺産って……。もー、しょうがないですねぇ。キャビネット見てくるので待っててくださいね」

一連のやり取りを見ていた秀人は、なぎさに向けて明るく笑う和花を見てぐっと息を飲んだ。普段から相手に対しておっとりとした笑顔を返す和花。けれど今の和花はなぎさに対していたずらっ子のような感情豊かな表情をしたのだ。そんな砕けた和花を初めて見た秀人は珍しいものでも見るように和花の後ろ姿を目で追う。

するとふいに視界が遮られたかと思うと、なぎさが目の前に立っていた。
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