遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
掃除を済ませ買い物にも行ったが、秀人が来るまで落ち着かない和花は今日何度めかの掃除機をかけた。ホコリは落ちていないだろうか、整理整頓できているだろうか、普段気にならない細かなところまで今日は気になってしまう。

約束の11時までまだ15分もあるというのに、そわそわと何度も時計を確認しては緊張するということを繰り返している。

それほどまでに、秀人が家に来ることが嬉しく信じられない気持ちでいっぱいなのだ。

やがてピンポンとチャイムが鳴り、とたんに和花の心は踊った。

「こんにちは、佐伯さん」

「こんにちは、今日はお邪魔します」

丁寧に挨拶をする秀人はいつものスーツとは違って私服で、また違った魅力がまるでレアなものでも見たかのように和花の胸をキュンキュンさせた。

「ど、どうぞ。散らかってますけど……」

むしろいつもより綺麗です、とは和花の心の呟きである。

テーブルの上にはガスコンロとすき焼き鍋。
準備万端とばかりに牛肉以外のものはもう用意されている。あとは冷蔵庫から牛肉を取り出して……。

「ああっ!」

突然和花が声を上げた。

「佐伯さん、ごめんなさい。ガス缶が切れていました。ああ~準備万端だと思ったのに。すぐ買って来ますので待っててください」

立ち上がる和花の手を秀人は掴んで止める。

「では一緒に買いに行きましょう」

有無を言わさず、秀人は和花の頭を優しく撫でて微笑んだ。

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