堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
拍手は少しの間続いた。やがてその拍手の音が収まってくると、代わりに大広間に楽器の音が流れてくる。
演奏を合図に参加者はそれぞれダンスや会話を始めていった。

歓談の時間。ジークウェルトとマリアベルは壁際に移動する。
先ほど素晴らしい挨拶をした王女の前には人だかりが出来ていた。皆それぞれ挨拶を交わしながら自分を売り込みたいのだろう。
王女はまだ決まった婚約者もいない。しかし結婚適齢期はすぐそこまで迫っている。もしかしたら、という思惑も貴族たちの中にはあるのだろう。
いやはや王族とは大変な肩書である。ようやく自分の国へ帰ってきたというのに休む暇もないのだから。

そう思いながら人だかりをマリアベルは遠巻きに見ていると、その人だかりの中にあの男を見つけて顔をついしかめ、扇で顔を隠した。

レイニード・コルネリア伯爵。
胡散臭い笑みを顔に張りつけて、必死に王女の傍へ寄ろうとしている。

学園でのあの一件後、レイニードはあの男爵令嬢と結婚するものだと思っていたのだが、結局結婚はしなかったようだ。かといって他の令嬢と結婚したという話も流れてこないところを見るに、彼もまだ独身なのだろう。
自分のことを棚に上げて、やれ行き遅れなどと平気で言えたものだ、とマリアベルは悪態をつきたくなる。

(嫌なものを見てしまった、何か美味しいものでも飲んで気分転換をしよう)

そう思ったマリアベルはジークウェルトに声をかける。

「飲物を取りに行ってまいります。貰ったらまたここに戻ってきますので」

「ん?飲物?なら私が取りに行ってくるよ。君はここで待ってて」

「いえ、自分で」

「いいからここで待ってて」

有無も言わさずジークウェルトは行ってしまう。
そんなに気にしなくてもいいのに、とも思うが、下手に動いてそれこそレイニードに気付かれるのも面倒だ。

マリアベルはじっとその場で顔を扇で隠したまま、立っていた。
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