騎士のすれ違い求婚

2年の間に、彼は何回か出兵した。

一年前からは、この膠着した関係を決着すべく、騎士団は研ぎ澄ますように、身も心も戦に向けて集中し、万全の準備を整えた。
ピリピリとした何とも緊張した空気が、城にも張り詰めていた。

ティアは知っていた。

彼がこの国のためと、そして、何より自分のために、最後の戦に出ようとしている事を。
隣国との長き諍いをここに決着をつけ、平和な国へと導く。

長年、小競り合いの続いていた国境を、この戦で終わらせて長く続く平和を築く。
それはつまりは、愛する人を守り、手にするためだ。

そして、戦に出る直前。

彼は、決意と抑えられない愛をたたえた目で、王女の立つバルコニーを見上げ、祈るように彼女の手を空で握るように、自らの手を握り拳にし、唇をおしあてた。

彼の王女に誓う勝利。

心が痛くて。

彼の無事を祈る、でも、その勝利を手に帰ってきて欲しくない、そんな、最低な自分の嫉妬に、

彼の姿がうかぶ。

他の女性を愛した彼の、昔から変わらない優しさを。

強さを。

ティアの心は砕け散ってしまったかのようだった。

せっかく、ジュノ様が血を飲むような苦労をして、自分の手で勝ち取る幸せなのに。
ちゃんと喜んであげなければと分かっている。

そう思うのに、彼が王女に結婚を申し込むのなら、もう死にたいと思った。
我慢できない。何もかも終わりだ。


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