騎士のすれ違い求婚

庭師が作業している。
ジュシアノールに気がついて、笑顔を見せた。

「ティアは? 」

「いま、ここの花を持ってどこかに行かれたところです」

「これは⋯⋯ 」

「そう言えば、あなた様が幼い頃、お嬢さまに下さった花でしたな。
お嬢さまは、それは大事になさっておられたのです」

「こんなに増やしたのか⋯⋯ 」

あたり一面、同じ花が咲いている。
ジュシアノールは言葉を失った。
これがあなたの気持ちと思っていいのだろうか、と込み上げる気持ちでいっぱいになる。

屋敷に再度戻るが、ティアはいない。

「お嬢様ったら、いったいどこに」

「帰ってきたら、私が大切な用事があるので、必ずここにいるようにと言って欲しい」

ふたたび、ジュシアノールは急足で庭に走り出た。

やはり姿が見えない。

その奥は。

あの幼い日に彼女とよく遊んだ場所だ。
そして、野犬に襲われた場所。
2年前に。最後に2人で話せた場所。

柔らかい頬に、溌剌とした明るさ、日の光のような彼女。
淑やかな綺麗な女性に育ったが、いまも、眩しく魅入った光が内側から漏れ出るような彼女の生命力に、屈託ない幼き日の面影が残る。

大きな木。

その木の上にティアがいた。

彼女が泣いている、一人で。
肩を震わせて、この世の終わりのように。

「なぜ泣いてる? 」

と見上げてジュシアノールは聞いた。

「こないで」

とティアが震える声で言った。

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