騎士のすれ違い求婚

彼はひたと視線を合わせて人を見るのが癖だ。
口数は少ないため、余計、その目に捉えられた者は、男女問わず、ドギマギとあわててしまう。

鼻筋は生まれの良さをこれでもかと見せつけ、形良い唇は薄く、ちょうど良い色合いでその容姿をさらに整える。

人ではないと思うほどの美しさは、古代のエルフか氷の世界の王子かとでもいわんばかりだ。

優雅に、隙のないいでたち。
鍛えられた剣を持つ長い指は、やはり美しく大きく骨張っており、父親から受け継いたといういかつい指輪がいつもはめられている。

普段のジュシアノールは、スーッと体温のしないような、穏やかとも少し違う物静かな、硬質な、中に何かを秘めているような雰囲気をたたえていた。
氷のように静かな静謐な穏やかな美しさ、だが、ティアは知っていた。

一度だけ。

ティアは目の前で見た。

彼の内側から、熱いかたまりと怒りが、まるで炎のように熱く一気に吐き出すのを。

騎士としての彼。

戦場を駆ける姿は、鬼気迫ると言う。
己が仲間を傷つけるものには容赦なく、たかが外れるような瞬間があるという。

あの信じられないほど整った容姿に、剣呑な雰囲気を浮かべた瞳に、つきさすよう睨まれたものはすくみ上がってしまう。

彼のそんな強さこそが今回の勝利だ。

しかし彼は好んで戦うのではない。
普段は、小さな虫にまで命を大事にするような優しい人だ。

ただ、守ろうとしている。
大事なものを。
この国を。
そのために彼は鬼神にもなるのだ。


離れていても、彼だけ。
ジュノ様の姿だけ。
ティアの心にあるのは、彼だけだ。

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