託宣が下りました。
 魔物が出てるって? と彼は唐突に言い出しました。

「は……?」
「巫女の町に、魔物が出たらしいじゃないか。洞窟(ダンジョン)まで発生させて」
「あ――」

 ランプの火が動揺で揺れました。
 魔物。そうです、サンミリオンに帰ったら、今度はその問題があるのです。

「ラ、ラケシスが討伐してくれますから」

 わたくしは震える声で言いました。

 これではまるで妹を死地に放り込むことを望んでいるかのよう。
 でも――他に何を言えばいいのでしょう。

 騎士は枝から両手両足でぶらさがる姿勢のまま、難しい顔をしました。真面目に話をする体勢にはとても見えないのですが。

「……厳しいな、ラケシス殿一人じゃ」
「仲間はサンミリオンで募集するんです。サンミリオンにもギルドはあります」
「知ってる。だが現地で集めるようなパーティじゃなおさら厳しい。死にに行くようなものだ」
「そんな!」

 騎士の言葉に、胸がきりりと痛みます。
 ラケシスの力では厳しい? このままではあの子を死なせてしまう?

「でも、だったらどうすれば」

 片手で持っていたランプを思わず両手で掴み、力をこめます。火がふるふると震えて、わたくしたちの影を落ち着かなく揺らします。

 騎士は、ぼやくように言いました。

「……これはさすがになあ」
「え?」
「どうしてもあなたの頭の中に『俺に頼る』という選択肢がないと思うと、さすがに悲しくてな」
「――…」

 わたくしは言葉に詰まりました。
 影が、今度は違う理由で大きく揺れました。

(騎士に、頼る……?)

 ……たしかに、魔物討伐ならばこれ以上ない人材でしょう。

 何しろ彼は勇者の片腕と呼ばれるほどの腕前。その上彼が出陣するならば、勇者様たちがともに討伐に出てくれる可能性が高いのです。

 頼ればいいのです。ここで、お願いしますと言えばそれで解決する……

(――無理よ)

 心がどうしてもそれを許しません。だって今まで散々彼を拒否してきたのに、こんなときだけ頼りになんかできない。

 それは人として、許されないことのように思うのです。

 たしかに、わたくしのような戦えない人間が悠長にこだわっていいことではありません。魔物は一刻も早く倒さなくては。一刻も早く倒すためには、強い人間に頼らなくては。体面だとかプライドだとかは無意味です。

 それでも……。
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