我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
9 救える命があるのなら
暖かな風、柔らかな日差し、子どもたちの駆回る声。
それなのに私たちを包み込むのは、妙な沈黙。
何か言わなきゃと、口を開いた時だった。

──ドーン!

地響きのような大きな音がしたと同時に、目の前が急に暗くなった。
誠護さんに抱き締められていたのだ。

「な、何──?」

それが何に対して向けた言葉なのか、自分でもよく分からないけれど。
誠護さんは私に覆い被さったまま、頭をあげて状況を把握しようとしている。

「たぶん、爆発」
「え……」
「黒煙が上がってる。あっちの方」

頭を上げれば、芝生の広場の向こう側にはっきりと、黒煙が見えた。

「あそこ、自動車工場の辺り……」
「ああ。でも、煙はたぶん道のこっち側。公園内だ」
「え……」

嫌な予感がした。
頭から血の気が引いていく。
だって、あの辺りは……

「どうした?」
「こどもの広場」
「は?」
「自動車工場の向かいは、こどもの広場だよ! 遊具とかいっぱいあるところ!」
「お前、それ……!」

誠護さんは形相を変えると、さっと私の上から退く。
そして、さっと立ち上がり言った。

「見てくる。お前はここにいろ。やばそうだったら逃げろ。命は守れ。いいな」
「え……」
「子どもたちが、犠牲になってるかもしんねねーだろ!」

誠護さんはそう言い残して、黒煙の上がる方向へ駆け出した。

上半身を起こすと、黒煙の方を見て呆然とする人、スマホを向ける人。
そのなか、煙の方向からこちらに向かってくる人はいるものの、煙の方向に向かっていくのは彼だけだ。

「すみません、何があったんですか!?」

向こうから来た人を捕まえて尋ねる。

「大型のトレーラーが公園に突っ込んだみたいだよ。街路樹全部なぎ倒したって……」
「嘘……」

『救える命は救いたい』

彼の言葉が脳で再生される。
ふう、と息を吐き出すと、私も黒煙の方へ向かって走り出した。

 *  *  *

こどもの広場には、聞いた通り歩道の街路樹をなぎ倒し、大きなすべり台をへし折るようにして横転するトレーラー。
もちろん、周りは炎に包まれ、黒い臭いが辺りに立ち込める。
必死に子どもの名前を呼ぶおとな、泣きながらきょろきょろと何かを探す子ども。

その中、誠護さんはその身ひとつで炎に近づき、動けなくなった子どもや自立脱出不能な人を抱えてはトレーラーから遠ざけていた。
もちろん、中にはほとんど動けない人も。

「誠護さん!」

慌てて駆け寄ると、抱き抱えていた幼児を託された。

「意識不明、呼吸なし。いけるか?」
「え……」
「できねーならいい。あの辺りの芝に寝かせておけ。すぐに行く」

誠護さんはそう言って、私に子どもを託し戻っていく。
私は子どもを抱き抱えながら、芝まで運んで仰向けに寝かせた。
顎を上にあげ、気道確保する。
すると、ひっくひっくとわずかな息が聞こえて、ほっと胸を撫で下ろした。
すぐに誠護さんがやってくる。

「息してるよ!」
「これは死戦期呼吸だ! もういい。下がってろ!」

誠護さんはそう言って、周りを見回す。
そして私の横に座り、小さな体に胸骨圧迫を始めた。

私はなす術もなくそこに立ったまま呆然とその姿を見つめた。
私だって『救える命は救いたい』のに。
必死に命を紡ごうとしている人たちがいるのに。
その命を救おうとしている彼がいるのに。

足手まとい。邪魔。

唇を噛んだ。
拳を握った。

「突っ立ってるだけならどっか行け!」

彼の怒号にはっとした。
今、私にできることは……

「AED持ってきます!」

私はそこから駆け出した。
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