そのサキュバスは夢を見る

夢の中の悪魔

突然言われた言葉。

「何カヲ忘レタガッテイルダロウ!ソレヲ忘レサセテヤル…!!オマエガ本当ニ忘レタイノナラ…!!」

私に強く訴えかける悪魔の声に、私は何故か胸が締め付けられる気がした。
悪意やいたずらな気持ちは悪魔からは何故か全く感じられない。

夢の中だという認識はある。
それでも夢の中にもかかわらずこんなことを言われるなんて…

彼は唖然とする私を組み敷き、強引に服を解き始める。

地面は柔らかく、私の身体は跳ね上がった。

「っ!?」

「サア…!!」

彼は強く私を抱きしめながら、骨ばった大きな手を私の身体に這わせ始めた。

「あっ…!!」

「オマエガ本当ニ望ムナラ、何モ考エラレナクナルマデ相手ヲシテヤル…コノ夢ノ中デ…!!」

私は何も考えられないうちに組み敷かれたまま身体中を嬲られた。

「っあぁ…!」

何故か嫌がることもなく、されるがままの私。


…忘れられるものなら…ティト様との逢瀬を……

優しかったティト様と過ごした日々を……

私は忘れなければいけないから……

「…何故ソンナニシテマデ忘レヨウトスル…?」
『…俺は君を傷つけてしまったの…?』

「!!」

悪魔の問い掛けに被るように、私の創った幻なのか、ティト様の声が聞こえてくる。

「…『サキュバス』では居られなくなってしまうから……」

これは…私の本心…?

「…オマエハ、忘レタイノダナ…」
『…俺は…忘れないよずっと…』

私の目からは涙が溢れる。

悪魔に組み敷かれたまま、抱きすくめられたまま、私の中からティト様が消えていく……

「っ…違う…ずっと私の心の支えだった…ティト様といられてとても幸せだったの…!!でもティト様を思うと苦しくなる…こんな私のそばに、ずっといてはもらえない…だから……」

悪魔は精一杯の受け答えをした私を強く抱き、深く繋がった。

「っ…!!」

「忘レロ…最後ノ逢瀬ダ……」

悪魔は震えている。

「…何モ考エルナ…」

悪魔は私を抱き締めたまま律動を繰り返す。

「っあ…あぁ…!!」

…私は本当にティト様を…

夢の中なのに、胸が痛んで、悪魔の行為のせいではなく苦しくて、涙まで流れて……


「…ありがとう…ナンネ……」

悲しげなティト様の声が聞こえた気がした…
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