そのサキュバスは夢を見る

一見客の変わった『望み』

そんなある日の夜、私が待機をしていると今日もお客様がやってきた。

「『サキュバスのナンネ』は、君??」

私と同じ『人』の姿をした、私と同じ歳頃ほどの穏やかそうな若い男性。

「はい。お客様、ですね…?」

私はお客様に会うとすぐさま、その相手がどんな雰囲気が欲しいのかを考え始める。

出逢い始めは事務的なやりとりだけ。
逢瀬の最中に私が切り替えるためでもある。


宿に案内され部屋で彼と二人きりになったけれど、素振りも見せない彼の望みは私には珍しく分からなかった。

「…それでは…どのような雰囲気をご所望でしょう…?」

分からなければ本人に聞くのが一番の近道。
私はいつものように無表情で事務的にそう尋ね、そっと身構えた。

けれど…

「『君』はどうしたい?」

彼は穏やかな笑顔を浮かべて私にそう聞いた。

「え…??」

私を『サキュバスのナンネ』だと知らない相手ならまだしも、知っている相手にかつて、『どうしたいか』など聞かれたことはない。

「ど…う……??」

私はまた戸惑う。

「『ナンネ』は、どうしたい?」

彼は自然な笑顔で、さらに私に問いかける。

私はどうしたらいいのか分からず途方に暮れたけれど、なるべく態度や顔に出さず、いつも逢瀬の終わりにする笑顔を作って言った。

「…お客様の思いのままに…今宵私は、貴方様だけのものですから…」

彼は思いの読めない笑顔で私をしばし見つめたあと頷いた。

「…そうだよね、相手によって雰囲気を変える『サキュバスのナンネ』だもんね…?じゃあさ、俺をいじめてみてよ。言葉でも、行為でも。ね?」

「はい、かしこまりました。」


「『貴方が私を買うって?笑わせるんじゃないわよ…!』」

かつていた、自分に酷くしてほしいというお客様と同じように、私は彼を睨みつけて責め立てた。

タオルで彼の手をベッド柵に縛り、顎をつかみ上げ、彼の顔に自分の顔を近づけて覗き込む。

「あっ…」

彼の顔が上気したように赤く染まる。

「『なんて無様な姿なの!みっともないわ、こんな姿で感じるなんて…!』」

熱が高まっていくのが服越しに伝わるその身体に私の手を這わせ、少しずつ力を込めて撫で回す。

「っ…はあっ…ナンネ…あぁ…!!」

彼の吐息は徐々に上がっていった。
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