訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
「本当? ならさっさと結婚契約書に署名をしてしまう?」
「情緒がないわよ。でも……結婚式は大きな教会でなくても、どこか温かな小さな教会で、近しい人たちだけで挙げたいわ」
不思議だった。あれだけ迷っていたのに。
一度心が決まってしまうと、早く彼のものになってしまいたいと願っている。この温もりが愛おしくて離したくない。片時だって離れたくない。
ギルフォードの温もりが心地よくて、そういえば今日は色々と大変で。気を許したフューレアの瞼がとろりと落ちていく。この腕の中から離れたくないなあ、と思いながらフューレアは眠りの国へと旅立った。
* * *
翌朝、公爵家は天地がひっくり返るほどの大騒ぎになった。
何しろ客人であるフューレアが公爵家の嫡男と同じ寝台で眠りから覚めたのだ。
朝食を終えた後、二人は公爵夫妻の元に呼び出された。
公爵夫妻を目の前にしたフューレアは小さく身じろぎをした。なんだろう、このなんともいえないむず痒い気持ちは。いたずらがバレてしまったときとは違う種類の後ろめたさがある。
昨日の行動に後悔はないのだが、それでも年配者二人を前にすると目を合わせられない。
「おまえはもっと理性的な男だと思っていたよ」
レーヴェン公爵が重たい息を吐きながら口を開いた。
「ギルフォードを責めないで。わたしが彼の部屋に行ってしまったの。メダイユを見つけてくれて。わたしにとって一番に大切な宝物だったの。お母様がくれたものだったから。だから、どうしても彼に会って気持ちを伝えたかったの」
今回のこれはギルフォードだけの責任ではない。むしろフューレアが時間も考えずに彼の元を訪れたのが始まりだった。そして寝落ちをしたのはフューレアの責任だ。
彼はただ寝台を貸してくれただけ。どうやらフューレアはギルフォードの着衣をぎゅっと握って離さなかったようなのだ。乳幼児のような所業にフューレアは起きてすぐに彼に謝った。それはもう盛大に。
「いえ。私の不徳の致すところです。フューは悪くない」
「ギルフォードは悪くないわ。彼の腕の中が心地よくて、眠ってしまったわたしがいけないの!」
それを聞いた大人三人が黙り込み、奇妙な沈黙が生まれた。
「彼女の名誉のために言っておきますが、彼女の身は未だに清いままです」
ギルフォードが付け足すと、レーヴェン公爵は黙り込み、それから背もたれに深く身体を預けた。
「神に誓えるか?」
「もちろん」
レーヴェン公爵親子がぴりぴりとした空気を出している。
確かに結婚前に同じ寝台で眠るのはよろしくなかった。フューレアは後ろめたくてさきほどから少し落ち着きがない。
「フィウアレア様」
レーヴェン公爵に名前を呼ばれた。彼がこの名前を呼ぶのはいつ以来だろうか。
フューレアは慌てて背筋をぴっと伸ばした。
「はい」
「あなた様はこの、ギルフォードで本当によろしいのでしょうか」
フューレアは自分の体に力が入るのを感じた。すっと息を吸って、それからお腹に力を込める。まっすぐにレーヴェン公爵に視線を合わせる。
言いたいこと、言わなければならないことを今伝えなければならない。
「わたしは、ギルフォードと一緒に未来を歩みたい。だから、わたしは自分の歩む未来のためになんだってする」
「では、決断をしたということですね」
「ええ」
フューレアはすっと顎を引いた。
ギルフォードと未来を歩みたい。彼の手を取りたい。
そのためにフューレアは前に進む決意をした。
レーヴェン公爵はゆっくりと頷いた。
「わかりました。では、そのように取り計らいましょう」
「情緒がないわよ。でも……結婚式は大きな教会でなくても、どこか温かな小さな教会で、近しい人たちだけで挙げたいわ」
不思議だった。あれだけ迷っていたのに。
一度心が決まってしまうと、早く彼のものになってしまいたいと願っている。この温もりが愛おしくて離したくない。片時だって離れたくない。
ギルフォードの温もりが心地よくて、そういえば今日は色々と大変で。気を許したフューレアの瞼がとろりと落ちていく。この腕の中から離れたくないなあ、と思いながらフューレアは眠りの国へと旅立った。
* * *
翌朝、公爵家は天地がひっくり返るほどの大騒ぎになった。
何しろ客人であるフューレアが公爵家の嫡男と同じ寝台で眠りから覚めたのだ。
朝食を終えた後、二人は公爵夫妻の元に呼び出された。
公爵夫妻を目の前にしたフューレアは小さく身じろぎをした。なんだろう、このなんともいえないむず痒い気持ちは。いたずらがバレてしまったときとは違う種類の後ろめたさがある。
昨日の行動に後悔はないのだが、それでも年配者二人を前にすると目を合わせられない。
「おまえはもっと理性的な男だと思っていたよ」
レーヴェン公爵が重たい息を吐きながら口を開いた。
「ギルフォードを責めないで。わたしが彼の部屋に行ってしまったの。メダイユを見つけてくれて。わたしにとって一番に大切な宝物だったの。お母様がくれたものだったから。だから、どうしても彼に会って気持ちを伝えたかったの」
今回のこれはギルフォードだけの責任ではない。むしろフューレアが時間も考えずに彼の元を訪れたのが始まりだった。そして寝落ちをしたのはフューレアの責任だ。
彼はただ寝台を貸してくれただけ。どうやらフューレアはギルフォードの着衣をぎゅっと握って離さなかったようなのだ。乳幼児のような所業にフューレアは起きてすぐに彼に謝った。それはもう盛大に。
「いえ。私の不徳の致すところです。フューは悪くない」
「ギルフォードは悪くないわ。彼の腕の中が心地よくて、眠ってしまったわたしがいけないの!」
それを聞いた大人三人が黙り込み、奇妙な沈黙が生まれた。
「彼女の名誉のために言っておきますが、彼女の身は未だに清いままです」
ギルフォードが付け足すと、レーヴェン公爵は黙り込み、それから背もたれに深く身体を預けた。
「神に誓えるか?」
「もちろん」
レーヴェン公爵親子がぴりぴりとした空気を出している。
確かに結婚前に同じ寝台で眠るのはよろしくなかった。フューレアは後ろめたくてさきほどから少し落ち着きがない。
「フィウアレア様」
レーヴェン公爵に名前を呼ばれた。彼がこの名前を呼ぶのはいつ以来だろうか。
フューレアは慌てて背筋をぴっと伸ばした。
「はい」
「あなた様はこの、ギルフォードで本当によろしいのでしょうか」
フューレアは自分の体に力が入るのを感じた。すっと息を吸って、それからお腹に力を込める。まっすぐにレーヴェン公爵に視線を合わせる。
言いたいこと、言わなければならないことを今伝えなければならない。
「わたしは、ギルフォードと一緒に未来を歩みたい。だから、わたしは自分の歩む未来のためになんだってする」
「では、決断をしたということですね」
「ええ」
フューレアはすっと顎を引いた。
ギルフォードと未来を歩みたい。彼の手を取りたい。
そのためにフューレアは前に進む決意をした。
レーヴェン公爵はゆっくりと頷いた。
「わかりました。では、そのように取り計らいましょう」