やっぱり幼馴染がいいと彼氏に振られたら、彼のライバルと恋人の振りをする事になりました

 ひくりと頬が強張るのを感じる。
 男の先輩からの合コンの誘い。
 同棲相手がいると知っても誘うらしい。

「お願い、智樹」
 擦り寄る愛莉にいつもの返事をする。
「いいよ」
 するとぱあっと花のような笑顔が返ってきて。
「嬉しい! 智樹、大好き! じゃあお金持って行くね!」

 嫌な顔をすれば愛莉は泣くから……
 先輩に怒られてしまうと、職場で嫌われる。と──

 二人で貯めようと始めた結婚準備金。
 貯金箱に入れては出すを繰り返すから、銀行に預ける間もなく無くなっていく。
 他の男と飲むために減っていく俺たちのお金。

 俺に黙って行くのは忍びないから、と始めたこの報告は、いつまで続くんだろう……
 知っても知らなくても頭が痛い。

 もしかして結婚してからも……
 いや、そんな筈はない。

 首を横に振る。
 愛莉はそんな女じゃない。

 ──そんな女って、どんな女だ……?

 一瞬過った考えを振り切るように、俺は身を捩り、背中にいる愛莉を抱きしめた。

「愛莉、愛してる」
「私もよ、智樹」

 嬉しそうに背中に回される腕に答えるように、俺も愛莉の小さな身体を一層きつく、抱きしめた。
< 30 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop