ピエロの初恋
「……なら、最後まで楽しまなきゃね。あなたのピエロを」

健斗はそう女の子に微笑まれた時、何と返せばいいのかわからなくなった。胸が締め付けられるように苦しい。

ずっと舞台の上からよかったのに、と健斗は心の中で呟く。ジャグリングや玉乗りを披露しているピエロの時間は、他のことを考える余裕なんてない。こんなにも苦しまなくていい。

でも、ピエロという魔法が解けてしまったら、健斗の胸はまたこの初恋に揺さぶられる。甘酸っぱくて時々苦い夢を、健斗はずっと見ているのだ。

「特別に、君にだけ見せるよ」

離れ離れになっても、互いの心にこの甘酸っぱい思い出が残るようにと健斗は願いを込めて玉を空中に投げた。









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