第2ボタンより欲しいもの。 ~終わらない初恋~
(なるほど。だから岡原もおんなじクラスだった友達とだけ一緒にいるワケね)

「分かりました。じゃあ先生、また後で」

 真樹は山村先生に会釈すると、同じクラスだった美雪と二人の友達を「行こ」と促し、二組の子が集まっている一画へ行った。

****

「――おっ、麻木やないかぁ! 元気そうやなぁ」

 その途中で一組の集団の横を通りかかった真樹の耳に、しゃがれ声で発せられた豪快な関西弁が飛び込んできた。

「わっ、(はし)()先生! 懐かしいな。お元気ですか?」

 声の主は、社会科教諭で一組の担任でもあり、岡原が所属していたサッカー部の顧問でもあった橋間一男(かずお)先生。関西弁なのは、出身が兵庫(ひょうご)神戸(こうべ)市だかららしい。

 真樹達が中三の頃にはすでに五十七~八歳だったので、現在は還暦(かんれき)を過ぎているはずなのだけれど。その豪快ぶりは今も健在だ。

「おう、ワシは元気やで! もう教師も定年退職して、今はのんびり喫茶店やっとるわ。(おもて)参道(さんどう)やけど、一回店においでや」

「へえ、喫茶店……」

「そうや。元教え子にはサービスしたるさかいな」

「おいおい! そんなんで商売になんの、オッサン」

 横から岡原がからかってきた。のはいいとして(いや、よくはないか)、元担任を〝オッサン〟呼ばわりするのはどうなんだろう、と真樹は思う。

「いや、ならんな。……ってコラ、岡原! 誰がオッサンじゃい!」

 ノリツッコミのついでに岡原を(しか)り飛ばす橋間先生。さすがは関西出身である。

「そうだよ、岡原。ダメじゃん、先生のことオッサン呼ばわりしちゃ!」

 真樹も便乗して、岡原をたしなめた。

「だってオッサンじゃん。六十過ぎてるし」

「そういう問題じゃないでしょ!? アンタに先生を(うやま)おうって気は――」

「ええねや、麻木。コイツはいっつもこんなんやさかいな。ワシとじゃれ合うんが楽しみなんや」

「えー、楽しみ?」

 オウム返しにした真樹は、この二人ってまるで父子(おやこ)みたいだなと微笑ましく思った。 
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