ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第14話 運命の少女】

(そろそろ帰ってきてる頃合だよな)

 カイは目立たぬよう平民に見える簡素な格好をして、冷たい風が吹き抜ける王都はずれの街中を歩いていた。多少の変化はあるものの、見知った街並みを迷うことない。

 目的地まであと少しというところで、カイはとある少女に目を止めた。

 その少女はきょろきょろとあたりを見回しながら、少し進んではまた戻り、手にした紙を見返してはまた進むという行為を何度も繰り返している。明らかに道に迷っていますというその少女に、ガラの悪そうな男が三人近寄って行った。

 何か会話をしたのち、男のひとりが少女の腕を(つか)み、強引に路地裏の方へ連れて行こうとしている。嫌がる少女を見ても、通行人は(われ)(かん)せずと足早に通り過ぎるだけだ。

 カイは小さくため息をついてから、仕方ないとばかりに少女がいる方へと歩を進めた。少女と言えど女性の危機を放っておける自分ではないのだ。

「やあ、ここにいたんだ。急にいなくなるから探しちゃったよ。ほら、変なおじさんと遊んでないでこっちにおいで」

 少女は驚いてカイを見上げ、ごろつきどもとカイを天秤(てんびん)にかけたのか少しだけ迷った後、カイの方へと駆け寄ろうとした。だが、腕を掴まれて思うように進めない。

「ちょっと離して!」

 少女がもがくも、その腕ははずれない。

「ああん? お前、このガキのなんなんだよ」
「それはこっちの台詞(せりふ)なんだけど。いい加減、その手を離してもらえないかな?」

 (すご)むごろつきに、カイはにっこりと笑顔を返した。少女はその様子を不安げに見ている。多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)な上、見るからに小柄なカイの方が弱そうだ。

「ああ? オレたちはこのガキを親切に案内してやろうってだけだ! てめえには関係ねぇ!」
「その()はオレの連れだよ。お呼びでないのはむしろ、おじさんたちの方」

 さあ、というようにカイは笑顔で少女に手を差し伸べた。今度は迷うことなく少女もカイへと手を伸ばす。

「んな与太(よた)(ばなし)、誰が信じるかよっ!」

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