ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「か、カイ様!?」
「はは、正解」

 目の前にいるのは確かにきれいな令嬢なのに、頭が混乱してしまう。言葉を失っているリーゼロッテを前に、カイはいつもの口調で微笑みかけた。

「オレ、昔からハインリヒ様のパートナーを務めてるんだ。王太子殿下が全く踊らないのは不自然だろうってことで」
「そう……だったのですね」
「ってことで、今日、オレのことはカロリーネって呼んでくださるかしら? ね、リーゼロッテ様」

 イジドーラに似た妖艶な雰囲気を醸しながら、途中から艶やかなハスキーボイスになっていく。目を白黒させているリーゼロッテを、カイはおもしろそうに見やった。

「まあ、冗談はさておき、今日のドレスもよく似合っているね。その生地は隣国の物?」
「はい、こちらの織物はジルケ伯母様からいただきました。今宵はアンネマリーも、同じ生地で仕立てたドレスで参加しているはずですわ」

 リーゼロッテのその言葉に、ハインリヒ王子が息をのむのが分かった。それに気づくと、リーゼロッテははっとする。

 アンネマリーと王子は思いあっていた。だが、王子の気持ちを直接聞いたわけではない。アンネマリーからはその切ない思いを聞かされはしたが、託宣の相手を探す王子の心がいまだアンネマリーにあるのかは、リーゼロッテには分からなかった。

(でも、この王子殿下のご様子……王子もまだアンネマリーの事を……)

 ハインリヒはリーゼロッテのドレスを見やり、すぐに苦しそうに視線をそらした。王城の託宣の間の前で、王子はとてもつらそうな顔をしていた。だが、今はそれ以上に青ざめているようにリーゼロッテの目には映った。

「時間だ。王妃よ、手を」

 ディートリヒ王がイジドーラへと手を差し伸べる。その手のひらに、王妃が優雅な動作で長手袋をはめた手を乗せると、会場への扉が開かれた。
 きらびやかなシャンデリアの明かりが眩しく映る。

 これから王に並んでダンスを踊るということを思い出し、リーゼロッテの緊張は一気に高まった。


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