ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第9話 妄執の棘 - 前編 -】
ふう、とため息をついて、リーゼロッテは顔を上げた。手にしていた守り石を、そっと箱の中に戻す。
「一度ご休憩なさいますか?」
「そうね……今日はもう集中できそうにないから、続きはまた明日にするわ」
気づかわし気なマテアスの言葉に、リーゼロッテは小さく微笑んだ。マテアスが紅茶をサーブしながら、ジークヴァルトに視線を送る。こちらを気にしないふりをして、気にしてる感がありありと伝わってきた。
「旦那様も一緒にご休憩なさってください」
「ああ」
書類をぽいと放り出すと、ジークヴァルトはそそくさとリーゼロッテの横に腰かけた。それを横目にマテアスが執務机に戻ると、そのまま部屋の中に沈黙が訪れる。
リーゼロッテは紅茶を一口含むと、音を立てることなくカップを戻した。そのままじっとテーブルの上を見つめている。その横でジークヴァルトは、冷めた紅茶をぐいと飲みほした。再び訪れた静寂に、振り子時計の音だけがカチコチと響く。
(何やら雲行きがあやしいですねぇ)
今日のあーんのノルマは、先ほどの休憩中に済んでしまった。こういうとき、リーゼロッテが積極的に話題を振って、いつも場を和ませてくれるのだが、今日はその彼女が一向に口を開こうとしない。しん……とした気まずい雰囲気の中、ジークヴァルトが助けを求めるようにマテアスの顔を見た。
か い わ
マテアスの口が音を出さずにそう動く。瞬間、ジークヴァルトの眉間のしわが深まった。
隣のリーゼロッテをちらりと見やり、口を開きかける。開きかけ、口をつぐみ、また口を開きかける。そんなことを繰り返しているうちに、執務室の扉が叩かれた。その音がやけに大きく響いたのは、気まずい沈黙のなせる業だ。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
やってきたのはエラだった。リーゼロッテは頷いて静かに立ち上がる。
「では、ジークヴァルト様、今日はこれで失礼いたします」
「ああ」
伸ばしかけた手をすり抜けて、リーゼロッテはさっと執務室を出て行ってしまった。再び静寂が訪れる。
「旦那様。作戦会議です」
険しい顔のまま書類を置くと、マテアスはすっくと立ちあがった。
「一度ご休憩なさいますか?」
「そうね……今日はもう集中できそうにないから、続きはまた明日にするわ」
気づかわし気なマテアスの言葉に、リーゼロッテは小さく微笑んだ。マテアスが紅茶をサーブしながら、ジークヴァルトに視線を送る。こちらを気にしないふりをして、気にしてる感がありありと伝わってきた。
「旦那様も一緒にご休憩なさってください」
「ああ」
書類をぽいと放り出すと、ジークヴァルトはそそくさとリーゼロッテの横に腰かけた。それを横目にマテアスが執務机に戻ると、そのまま部屋の中に沈黙が訪れる。
リーゼロッテは紅茶を一口含むと、音を立てることなくカップを戻した。そのままじっとテーブルの上を見つめている。その横でジークヴァルトは、冷めた紅茶をぐいと飲みほした。再び訪れた静寂に、振り子時計の音だけがカチコチと響く。
(何やら雲行きがあやしいですねぇ)
今日のあーんのノルマは、先ほどの休憩中に済んでしまった。こういうとき、リーゼロッテが積極的に話題を振って、いつも場を和ませてくれるのだが、今日はその彼女が一向に口を開こうとしない。しん……とした気まずい雰囲気の中、ジークヴァルトが助けを求めるようにマテアスの顔を見た。
か い わ
マテアスの口が音を出さずにそう動く。瞬間、ジークヴァルトの眉間のしわが深まった。
隣のリーゼロッテをちらりと見やり、口を開きかける。開きかけ、口をつぐみ、また口を開きかける。そんなことを繰り返しているうちに、執務室の扉が叩かれた。その音がやけに大きく響いたのは、気まずい沈黙のなせる業だ。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
やってきたのはエラだった。リーゼロッテは頷いて静かに立ち上がる。
「では、ジークヴァルト様、今日はこれで失礼いたします」
「ああ」
伸ばしかけた手をすり抜けて、リーゼロッテはさっと執務室を出て行ってしまった。再び静寂が訪れる。
「旦那様。作戦会議です」
険しい顔のまま書類を置くと、マテアスはすっくと立ちあがった。