ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第14話 寡黙な公爵 - 後編 -】

「ロミルダ!」
 いきなりやってきたエッカルトに、マテアスは勉強机から(いぶか)()な視線を向けた。家令である父親が、仕事中に部屋に戻ってくることなど滅多にない。そんな父がうれしそうに母ロミルダを持ち上げ、部屋中をくるくると動き回っている。

「な、何ごとなの、エッカルト」
「奥様がご懐妊なさいました!」
「ディートリンデ様が?」

 目を回し始めたロミルダを床に降ろすと、その肩を掴んでエッカルトは興奮気味に続けた。

「ジークフリート様の龍のあざが消えたということは、ついに託宣の御子(みこ)を授かったという(あかし)。誠に喜ばしい!」
「まあ! 今すぐリンデ様の元にいかなくちゃ」

「喜べ、マテアス。お前がお仕えする方がお生まれになるんだぞ」
 忙しい父と会話をする機会は本当にまれだ。いきなり水を向けられたマテアスは、内心驚きつつも神妙に頷いた。


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