ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【番外編 きみのいる世界】

「この方がヴァルト様の未来の花嫁様ですぞ」

 そう言ってエッカルトが持ってきたのは、一枚の肖像画だった。(かか)げられた絵から目が離せない。()がれるような何かが湧き上がり、戸惑いの中、そこに描かれた少女を食い入るようにじっと見つめた。

 蜂蜜色の髪をたなびかせた少女は、きっと陽だまりの中にいるのだろう。光り輝くような笑顔が眩しくて、ジークヴァルトはそんなことを思った。

 いつも座る真正面の壁に、その肖像画は飾られた。見上げるといつでも彼女は笑いかけてくる。

 ()せた世界は、そこだけが色を取り戻した。

 理由もないままジークヴァルトの瞳には、いつでもそう、映って見えた――

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