ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第2話 あなたの笑顔】
次に出る夜会のドレスを選びながら、リーゼロッテはエラと他愛のないおしゃべりを続けていた。
「では王妃様の夜会には、こちらのドレスで参加いたしましょうか」
「でもこれって去年、白の夜会用に用意したものよね? 白いドレスって、他の夜会なら誰が着ても大丈夫なのかしら?」
白の夜会は年に一度開かれるデビュタントが主役の舞踏会だ。その年に社交界デビューする令息・令嬢たちが、白を基調とした衣装を纏うのが慣習である。その夜会で白を身に着けるのは、デビュタントのみというのが暗黙の了解だった。
去年デビューを果たしたリーゼロッテは、はじめに作ったものとは別のドレスで参加した。今日言っているのは、あの日、日の目を見ることがなかったドレスの方だ。
「マダム・クノスペが今年風にアレンジしてくれますし、最近は若いご令嬢の間では白がメインのドレスが流行っているそうですよ。昨年の白の夜会でアンネマリー様が真っ白なドレスで参加されましたから、それがきっかけのようですね」
「まぁ、そうなのね。わたくし白の夜会では、アンネマリーには会えずじまいだったから……」
去年の白の夜会では異形の者が騒ぐのもあり、ジークヴァルトと途中で帰ってしまった。社交界デビューからもう一年近く経つのかと思うと、月日が巡るのは早いなどと感じてしまう。
「アンネマリー様は遅れて来られましたからね。純白のドレスに見事な紫の意匠が映えて、とてもお美しかったです」
あの日のいたたまれない雰囲気を、エラは敢えてリーゼロッテに伝えなかった。白の夜会でアンネマリーが身に着けていた王太子の瞳の色のネックレスは、今では「表立って婚約を発表できなかったハインリヒ王子が、男を寄せ付けないためにアンネマリーに密かに贈ったものだ」との噂が、社交界ではまことしやかに流れている。
真偽のほどは確かめようもないが、現在の王子とアンネマリーの仲睦まじげな様子を見ると、それがすべてなのだとエラは思っていた。
「ではマダムにはそのように連絡をいたします。お嬢様のドレスが決まらないことには、公爵様のご衣裳もお作りできませんからね」
にっこりと言われ、リーゼロッテの頬が染まる。ジークヴァルトの夜会服はいつでもリーゼロッテとおそろいだ。今までは対外的な仲良しアピールだと思っていた。だがこれからは紛れもなく恋人同士のペアルックなのだと思うと、気恥ずかしさだけが倍増する。
(両思いになって、はじめてヴァルト様とダンスが躍れるんだ)
デルプフェルト家の夜会では、事務的に踊るだけだった。あんな悲しいダンスはもう二度と踊りたくない。
いつか王子とアンネマリーが見つめ合って踊っていたように、次の夜会では自分たちも信頼し合って手を取り合える。
(想像するだけで胸がいっぱいだわ)
そわそわと落ち着かないリーゼロッテを、エラはいつまでも微笑ましそうに見つめていた。
「では王妃様の夜会には、こちらのドレスで参加いたしましょうか」
「でもこれって去年、白の夜会用に用意したものよね? 白いドレスって、他の夜会なら誰が着ても大丈夫なのかしら?」
白の夜会は年に一度開かれるデビュタントが主役の舞踏会だ。その年に社交界デビューする令息・令嬢たちが、白を基調とした衣装を纏うのが慣習である。その夜会で白を身に着けるのは、デビュタントのみというのが暗黙の了解だった。
去年デビューを果たしたリーゼロッテは、はじめに作ったものとは別のドレスで参加した。今日言っているのは、あの日、日の目を見ることがなかったドレスの方だ。
「マダム・クノスペが今年風にアレンジしてくれますし、最近は若いご令嬢の間では白がメインのドレスが流行っているそうですよ。昨年の白の夜会でアンネマリー様が真っ白なドレスで参加されましたから、それがきっかけのようですね」
「まぁ、そうなのね。わたくし白の夜会では、アンネマリーには会えずじまいだったから……」
去年の白の夜会では異形の者が騒ぐのもあり、ジークヴァルトと途中で帰ってしまった。社交界デビューからもう一年近く経つのかと思うと、月日が巡るのは早いなどと感じてしまう。
「アンネマリー様は遅れて来られましたからね。純白のドレスに見事な紫の意匠が映えて、とてもお美しかったです」
あの日のいたたまれない雰囲気を、エラは敢えてリーゼロッテに伝えなかった。白の夜会でアンネマリーが身に着けていた王太子の瞳の色のネックレスは、今では「表立って婚約を発表できなかったハインリヒ王子が、男を寄せ付けないためにアンネマリーに密かに贈ったものだ」との噂が、社交界ではまことしやかに流れている。
真偽のほどは確かめようもないが、現在の王子とアンネマリーの仲睦まじげな様子を見ると、それがすべてなのだとエラは思っていた。
「ではマダムにはそのように連絡をいたします。お嬢様のドレスが決まらないことには、公爵様のご衣裳もお作りできませんからね」
にっこりと言われ、リーゼロッテの頬が染まる。ジークヴァルトの夜会服はいつでもリーゼロッテとおそろいだ。今までは対外的な仲良しアピールだと思っていた。だがこれからは紛れもなく恋人同士のペアルックなのだと思うと、気恥ずかしさだけが倍増する。
(両思いになって、はじめてヴァルト様とダンスが躍れるんだ)
デルプフェルト家の夜会では、事務的に踊るだけだった。あんな悲しいダンスはもう二度と踊りたくない。
いつか王子とアンネマリーが見つめ合って踊っていたように、次の夜会では自分たちも信頼し合って手を取り合える。
(想像するだけで胸がいっぱいだわ)
そわそわと落ち着かないリーゼロッテを、エラはいつまでも微笑ましそうに見つめていた。