ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第6話 巫女の神託】
翌朝、早い時間に支度をさせられ、リーゼロッテは王城から東宮へと移動した。王家の馬車を使ったが、そこにジークヴァルトの姿はなかった。
到着するなり部屋のひとつに通されて、放置されたまま小一時間は経つ。不安しか込み上げてこなくて、窓もない部屋の中をリーゼロッテは落ち着きなく歩きまわっていた。
(どうしてここに連れてこられたのかしら……)
神官長が言うには、シネヴァの森にいる巫女に、新たな神託が降りたとのことだった。「託宣」は生まれた時に龍から賜るもので、受けた者の証が龍のあざだ。それとは別に、その時々で降りる龍の意思を、この国では「神託」と位置づけている。
これからは東宮で暮らすように。とにかくその一点張りだった。詳しいことは王女から言葉がある。それだけ言って神官長は行ってしまった。
本当にあれよあれよという間のことだった。ジークヴァルトと引き離され、夕べは隔離するように部屋の前に見張りが付いた。
胸元に手を伸ばすも、そこにジークヴァルトの守り石はない。夜会の時はいつも外して、部屋の引き出しにしまってあった。どうして持ってこなかったのだろうと、そんな後悔が湧いてくる。
ふと部屋の外で人の気配がした。ノックの音に返事をすると、やってきたのはひとりの男だった。年にして二十代後半くらいだろうか?
「お待たせして申し訳ございません。王女殿下がお会いになられます。どうぞこちらへ」
落ち着き払ったその様子に、リーゼロッテも少しだけ冷静さを取り戻した。
「あの、あなたは……?」
「これは失礼いたしました。わたしの名はアルベルト・ガウス。クリスティーナ様の従者兼、護衛騎士を務めさせていただいております」
「では王女殿下というのは、クリスティーナ様のことなのですね?」
「その通りでございます。突然のことで戸惑っておいででしょう。詳しくはクリスティーナ様からお話がありますので、ご案内させていただきます」
連れられるままリーゼロッテは部屋を出る。この東宮は屋敷というより塔のような外観だった。ひとつのフロアはそれほど広くないようで、アルベルトは中央にある螺旋状の階段に向かって進んでいく。
「王女殿下は最上階におられます。どうぞ足元にお気をつけてお昇りください」
見上げると、果てしなく続いていそうな階段だ。昇り始めてすぐに息が切れてくる。だが疲れたと拒否できる雰囲気でもなかった。王女の呼び出しとあれば、這ってでも行かなくてはならないだろう。
(なんだか王城で見た夢を思い出すわ)
守護者である聖女の力が異形たちを天へと還した日、夢の中でこんなふうに階段を何段も昇った。
(あの日は大きな荷物を持っていたから、今日はまだましかしら……?)
気を紛らわすようにそんなことを思う。笑う膝を誤魔化しながら、リーゼロッテはなんとか上まで昇りきったのだった。
到着するなり部屋のひとつに通されて、放置されたまま小一時間は経つ。不安しか込み上げてこなくて、窓もない部屋の中をリーゼロッテは落ち着きなく歩きまわっていた。
(どうしてここに連れてこられたのかしら……)
神官長が言うには、シネヴァの森にいる巫女に、新たな神託が降りたとのことだった。「託宣」は生まれた時に龍から賜るもので、受けた者の証が龍のあざだ。それとは別に、その時々で降りる龍の意思を、この国では「神託」と位置づけている。
これからは東宮で暮らすように。とにかくその一点張りだった。詳しいことは王女から言葉がある。それだけ言って神官長は行ってしまった。
本当にあれよあれよという間のことだった。ジークヴァルトと引き離され、夕べは隔離するように部屋の前に見張りが付いた。
胸元に手を伸ばすも、そこにジークヴァルトの守り石はない。夜会の時はいつも外して、部屋の引き出しにしまってあった。どうして持ってこなかったのだろうと、そんな後悔が湧いてくる。
ふと部屋の外で人の気配がした。ノックの音に返事をすると、やってきたのはひとりの男だった。年にして二十代後半くらいだろうか?
「お待たせして申し訳ございません。王女殿下がお会いになられます。どうぞこちらへ」
落ち着き払ったその様子に、リーゼロッテも少しだけ冷静さを取り戻した。
「あの、あなたは……?」
「これは失礼いたしました。わたしの名はアルベルト・ガウス。クリスティーナ様の従者兼、護衛騎士を務めさせていただいております」
「では王女殿下というのは、クリスティーナ様のことなのですね?」
「その通りでございます。突然のことで戸惑っておいででしょう。詳しくはクリスティーナ様からお話がありますので、ご案内させていただきます」
連れられるままリーゼロッテは部屋を出る。この東宮は屋敷というより塔のような外観だった。ひとつのフロアはそれほど広くないようで、アルベルトは中央にある螺旋状の階段に向かって進んでいく。
「王女殿下は最上階におられます。どうぞ足元にお気をつけてお昇りください」
見上げると、果てしなく続いていそうな階段だ。昇り始めてすぐに息が切れてくる。だが疲れたと拒否できる雰囲気でもなかった。王女の呼び出しとあれば、這ってでも行かなくてはならないだろう。
(なんだか王城で見た夢を思い出すわ)
守護者である聖女の力が異形たちを天へと還した日、夢の中でこんなふうに階段を何段も昇った。
(あの日は大きな荷物を持っていたから、今日はまだましかしら……?)
気を紛らわすようにそんなことを思う。笑う膝を誤魔化しながら、リーゼロッテはなんとか上まで昇りきったのだった。