ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第4話 はなむけの言葉】

「わたくしに王の勅命(ちょくめい)が……?」

 王城からの使いに、丸められた書状を手渡される。(うやうや)しく差し出されたその一枚を、震える手つきで受け取った。
 巻きつけられた(ひも)(ほど)くと、物々しい文章が書き連ねられている。あて名には確かにリーゼロッテ・ダーミッシュの文字が。文末にはハインリヒ王の直筆の署名と共に、赤い王印が色鮮やかに押されていた。

(はじめての責務を(うけたまわ)ったんだわ……!)

 これまでもあっちでこっちで王命による保護を受けてきた。だがどれもリーゼロッテを守るためのものだ。

(でもこれは違う。王からちゃんとした(めい)を頂いたのよ)

 自分でも国の役に立てるのだ。一人前の貴族として認められた瞬間に、感動のあまり涙がせりあがる。
 なんとか(こら)えて、勅命書に目を滑らせた。そこには小難しい専門用語が並んでいて、なかなかに理解が難しい。

 察するに大体のところ、ジークヴァルトに降りた神託のお供として、国の最果ての地、シネヴァの森に向かえということらしい。そこでリーゼロッテも神事に参加して、共に儀式を受けてくるようにとのことだった。
 お供とはいえ、国の神事を(にな)う大役だ。感慨深く瞳を潤ませ、王城へと帰っていく使者の背をいつまでも見送った。

 不機嫌顔のジークヴァルトに腰を抱き寄せられる。不安定な体勢で寄りかかったまま、広げた書状に再び目を落とした。

(はじめてのお使い! 初めての旅行……!)

 それもずっとジークヴァルトと一緒の旅だ。
 高鳴った胸でリーゼロッテは、ジークヴァルトの顔をじっと見上げた。

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