ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第8話 森の魔女】

 木々の中に小路(こみち)の入り口が見え、長老はそこで立ち止まった。

「ここからはおふたりだけで進んでいただきます。馬や馬車は入れぬ決まり。大男でも数時間はかかる道のりですが、頑張って歩いていってくだされ」

 小路は曲がりくねっていて、行く先は暗くてよくは見えない。森の奥がどうなっているのかは、誰ひとり知らないらしい。ジークヴァルトに手を引かれ、不安に思いつつも足を踏み出した。

『ふたりともいってらっしゃい』

 入る一歩手前で声がした。振り返るとジークハルトがあぐらをかいて浮いている。

「ハルト様は行かれないのですか?」
『うん、この森は青龍の神気が濃すぎて、オレは入ることができないから』

 雪の森を見上げると、確かに清浄な気が包んでいる。促されて歩き出す。木立(こだち)の合間で手を振るジークハルトを、もう一度だけ振り向いた。

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